現代自動車、K-POPファンの声無視できず 推し活は地球を救う
SNSを使いこなす若年層からの支持を得て世界で活躍する韓国の「K-POP」アイドル。そのファンがアイドルが広告塔を務める企業を監視し、抗議する役割も果たし始めた。 【関連画像】現代自動車の広告に出演するBTS。22年サッカーワールドカップに合わせて展開されたキャンペーンの写真。同グループは22年からグループ活動を一時休止している。(写真:現代自動車) 2024年4月2日、韓国の現代自動車はインドネシアのアダロ・ミネラルズ・インドネシア(以下、アダロ・ミネラルズ)との「アルミニウム購入のための基本合意書」を終了したと、ロイター通信が報じた。背景には、韓国音楽(K-POP)ファンの現代自動車に対するグリーンウオッシュ(見せかけだけの環境対応)への抗議があるとみられる。 現代自動車がアルミ素材購入のためアダロ・ミネラルズと基本合意書を締結したのは22年11月。現代自動車は、アダロ・ミネラルズが水力発電による低炭素アルミ生産を推進する企業であり、「40年までに主要市場で販売する車を100%電動化、45年までに世界の事業所での消費電力を100%再生可能エネルギーに転換」する自社のカーボンニュートラル戦略にも合うと説明していた。 ところが23年2月、この説明は正しくないとする声が上がった。インドネシアとオーストラリアなど9つの環境団体が、アダロ・ミネラルズは現代自動車向けのアルミ生産のために、25年までにインドネシア内に石炭火力発電所を2基追加する計画であり、インドネシアの環境破壊が懸念されるという声明を発表したのだ。 ●ファンが「ウオッシュ」と反発 これにインドネシアのK-POPファンが反応した。現代自動車は18年、環境保護のメッセージを発信する韓国の人気アイドルグループBTS(防弾少年団)を世界展開に向けたブランドアンバサダーに起用し、「きれいな地球を守る」といった持続可能性を訴えるキャンペーンをいくつも行ってきた。また、ミレニアル世代とZ世代を合わせた「MZ世代」(韓国では主に15~39歳を指す)を、カーボンニュートラル時代を生きる最初の世代「ジェネレーションワン」と位置付け、BTSと一緒に踊るSNSキャンペーン「#ExpectingGen1」を実施するなどのマーケティングを展開してきた。 K-POPファンは、BTSを起用して「環境にやさしい企業である」と宣伝しながら、化石燃料を使う企業からアルミを調達してインドネシアに石炭火力発電所を増やすのはグリーンウオッシュだとして反発した。インドネシアのK-POPファンは「We are too cute to die from climate crisis(気候危機で死ぬには私たちはかわいすぎる)」をキャッチフレーズに、インドネシアの現代自動車による電気自動車(EV)充電所前でK-POPの楽曲に合わせて踊るなどして抗議した。 この動きにK-POPファンが立ち上げた団体「KPOP4PLANET」が賛同した。同団体は環境が破壊されればいわゆる「推し活」もできなくなるとして、K-POPのエンターテインメント産業が環境に与える問題の改善活動に取り組んでいる。 KPOP4PLANETはBTSの楽曲名「Mic Drop」をもじった「Hyundai, Drop Coal(現代、石炭をやめて)」キャンペーンを行った。「現代自動車はBTSをモデルに起用し、環境にやさしい車というブランドを築いた。地域社会に害を与える事業はやめ、アルミ生産に必要なエネルギーの出所を公開せよ」と要求。23年5月に世界中のK-POPファン1.1万人以上の署名を現代自動車グループのチョン・ウィソン会長宛に送った。これに現代自動車は「これから議論する」と答え、最終的にアダロ・ミネラルズとの基本合意書を更新しないと決め、24年3月で終了した。