なぜ韓国の高齢者自殺率は高いのか 貧困と孤独…日韓で手探りの連携
韓国における高齢者の自殺は、貧困と大きく関わっている。高齢者の貧困率が高くなった理由は、高齢者と若い世代の分離だ。 1980年代までの韓国は、両親と一緒に暮らし、若い世代が高齢者を支えるのが当たり前の社会だった。しかし、90年代半ばから世代が分離され、97年のアジア通貨危機以降は急速に進んだ。公的なケアや支援もないまま、高齢者は無防備な状態で貧困や病気、劣悪な住居、孤独に直面することとなったのだ。 経済力を重視する社会の価値観は、人を人として見るのではなく、何を持っているか、どんな家に住んでいるか、社会的地位はどうかといった点で判断する。経済的な両極化が深まり、何も持たない高齢者は社会から徹底的に疎外され、注目されなくなった。 若い世代は常に競争にさらされ、就職しても子供の教育や家賃を支払うのに苦労し、親の世代の面倒を見る余裕はない。高齢者は若い世代に頼ることができず、自分たちで生きていかなくてはならないが、十分な財産のない人が少なくない。
貧しく疲弊した生活が続いていくと、自分自身の存在を重荷と感じるようになる。悩みを打ち明ける相手もなく、孤独の中で自殺という選択に走るケースが後を絶たない。自殺ではないが、退職後に郊外のマンションで1人暮らしをしながら孤独死する高齢者も多く、深刻な問題だ。 また、孤独の中で精神的な疾患を抱え、自殺する高齢者もいる。投薬など医療面での対応だけではなく、高齢者が社会から排除されている構造を見直さなくては根本的な解決にはならない。社会活動に参加する機会を提供するなど、健康な日常を取り戻すことが重要だ。 日本は高齢化に備え、地方を中心にコミュニティーや地域の資源をうまく活用しながら、自殺予防に必要な経験や知識を蓄積してきた。高齢者に必要な行政プログラムは何か、高齢者が容易にアクセスし活用できる仕組みをどう作るか。韓国と日本がお互いの経験や情報を共有すれば、より効果的な対策を講じることができるだろう。 ファン・スンチャン 1969年ソウル生まれ。韓国・聖公会大大学院で博士号(社会福祉学)。ソウル市自殺予防センター長などを経て、21年から現職。
【一口メモ 日韓の自殺率】 経済協力開発機構(OECD)の統計によると、日韓両国の自殺率は、1990年ごろまでは日本が韓国の2倍ほど高い水準だった。しかし、90年代半ばから韓国の自殺率が上昇し、アジア通貨危機による景気悪化の影響を受けた98年に一気に高まり、2002年には日韓が逆転。リーマン・ショック後の09年に韓国は35・3とピークに達した。日本のピークは過去30年では1998年の24・7。OECD加盟国では韓国とリトアニアの自殺率が高いが、2018年からは韓国が最も高くなっている。