なぜ韓国の高齢者自殺率は高いのか 貧困と孤独…日韓で手探りの連携
韓国紙の記者は、こう警鐘を鳴らす。「自殺率が高いという統計に人々が慣れてしまっている。高齢者が絶望する社会の空気は、どの世代にとっても苦しいはずだ」 ▽寄り添う 日本でも自殺は大きな社会問題だが、特に危機感を抱えているのが秋田県だ。昨年の自殺率は前年比3・8ポイント増の22・6となり、3年ぶりに全国ワーストを記録した。自殺者の年代別では60歳以上が52・6%を占め、全国平均の37・8%よりも高い水準にあり、高齢者の自殺対策が急務となっている。 秋田大(秋田市)は21年4月、学内に「自殺予防総合研究センター」を開設した。自殺防止の専門機関が大学に設置されるのは全国初で、インターネットを利用して高齢者が大学生と会話をする活動などを行ってきた。今後は、悩みを聞き支援につなげる「ゲートキーパー」の研修を、県内の民生委員を対象に実施していく計画だ。 センターの特任助教、宮本翔平は、県内の高齢者の自殺について「家族と同居している場合に多い」とし、韓国とは逆の傾向にあると説明する。「高齢者が素直に自分の弱みを見せて、話のできる環境が必要。家庭や地域だけではなく、医療機関などと連携を進めていくべきだ」
自殺防止に取り組む同市のNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」は、13年から韓国中部の忠清南道との交流を続けている。忠清南道は韓国でも自殺率の高い地域で、民間と協力した自殺防止策について議論を重ねてきた。 蜘蛛の糸は、県内の中小企業経営者らの自殺を防ごうと02年に発足した。理事長の佐藤久男は「韓国の自殺対策は行政中心。韓国側は日本の民間団体の役割に大きな関心を持っていたが、統計の分析方法など、こちらが学ぶ点も多かった」と話す。 電話やネットでの相談のほか、毎月3回は対面で「いのちの総合相談会」を開く。昨年の相談会で扱った件数は166件と、前年より2割ほど増加した。昨年の県内の自殺者は209人。「31年までに100人以下」という目標の実現は見通せない。 だが、佐藤は韓国との交流を通じ、こう確信している。「行政でも民間でもいい。大切なのは、死にたいと思っている人のそばに誰かが寄り添うことだ」 【専門家インタビュー】黄淳燦 韓国・仁荷大招聘教授「背景に貧困と世代の分離」