元少年A「絶歌」出版なぜ批判集まる? 「サムの息子法」は導入すべきか
サムの息子法も「表現の自由」侵害の恐れ
「サムの息子法」の主な目的は、(1)犯罪被害者への補償を確実にすること、(2)犯罪による利得を防止すること――の2つにありますが、この法律ができるとどのような効果があるのでしょうか。 「犯罪被害者やそのご遺族は、犯罪により、耐えがたい精神的苦痛という損害を受けます。現在では、刑事和解や損害賠償命令制度があるため、加害者に対して慰謝料などを請求するハードルは、以前より下がりました。しかし、加害者が慰謝料を支払わない場合、被害者らには強制執行の手続をするという負担も生じます。 また、犯罪そのものや、犯罪を題材にして出版などをすることで、多額の利益を得られるとすれば、かえって犯罪を助長しかねません。現在でも、組織的犯罪処罰法や麻薬特例法には、犯罪収益を没収・追徴する制度がありますが、適用される対象が限定されてしまっています。『サムの息子法』は、これらの問題点を解決するための1つの手段となるのです」(伊藤弁護士) このような法律があれば、少なくとも自身の犯した犯罪を題材として収益を得ようとする、いわゆる「お金目当て」の表現行為は抑制されることになるでしょう。しかし、「サムの息子法」のような経済的利益を没収するにすぎないものでも、憲法21条1項が保障する「表現の自由」を侵害する可能性もあると伊藤弁護士は指摘します。 「アメリカの連邦最高裁は、1991年にニューヨーク州の『サムの息子法』を憲法違反と判断したことがあります。当時の『サムの息子法』は、犯罪について少し触れている表現物ならば、その犯罪について有罪判決がなされた否かを問わずに、収益を没収したため、マフィアの構成員へのインタビューに基づく伝記にも同法が適用されてしまったのです。分かりやすくいうと、「ライブドア事件」と呼ばれた証券取引法違反に触れている堀江貴文さんの著作『我が闘争』や、『盗んだバイクで走り出す~』という窃盗罪の自認を含む尾崎豊さんの名曲『15の夜』でさえも、その収益が没収されかねないのです。このような優れた作品に触れる機会が減ってしまうことは問題です」