「想星のアクエリオン」のすべて キャラデザ決定の舞台裏から特殊な制作手法まで、糸曽監督にインタビュー
リモートワークでアニメを作るには
――よく分かりました。そしてコロナ禍という状況下で、制作体制も分散型になったということですね 糸曽:そうなんです。シリーズ構成の村井さんをはじめ、メインスタッフは、複数のプロジェクトを掛け持ちしている人が多く、常にスタジオにいてくれるとは限りませんでした。また、私の拠点が大阪なので、東京のスタジオとの間を頻繁に行き来する必要がありました。 さらに、私は10年以上、大阪成蹊大学でアニメーション制作を教えているのですが、初期の教え子たちがアニメ業界で10年ほど経験を積み、力をつけてきたので、今回、演出や総作画監督として参加してもらっています。彼らは、大手アニメスタジオに所属しているのですが、「層が厚くなかなかチャンスが回ってこない」という悩みも聞いていたので、「ぼくがサポートするから、一緒にやってみないか?」と声をかけました。 彼ら以外にも、私が声をかけたクリエイターの多くは大阪在住です。また、背景美術を担当していただいている方は北海道在住です。コロナ禍という状況も重なり、結果的に、多くのスタッフがリモートで作業に参加する体制になりました。 ――他のアニメスタジオでは、コロナ禍でリモートワークが可能になったものの、「やはり1箇所に集まってコミュニケーションを取りながら制作を進めたい」という声も聞かれます。CGスタジオの場合は、制作に必要な機材や環境がオフィスにしかないという事情もあります。メリット、デメリットについてはいかがですか? 糸曽:リモートワークでは、意思疎通がうまくいかない場合があるのは、デメリットの一つです。例えば、何かを確認したいときに、いちいちスケジュールを合わせてオンラインで集まらなければならないので、時間的なロスが生じることもあります。一方で、メリットとしては、場所に縛られず、世界中のクリエイターと協力できるという点があります。 今回の作品では、ロボットのバトルシーンを「スパイダーマン:スパイダーバース」(2018)のような、スタイリッシュで斬新な表現にしたいと考えました。そのためグラフィカルな要素を多く取り入れています。この部分はカナダ在住の日本人クリエイターに依頼しました。時差があるためリアルタイムでのコミュニケーションは難しいですが、グループウェアを活用することでスムーズに制作を進めることができました。 ――前世、現世、アクションと、異なる設定の制作が同時並行で進められたとのことですが、具体的にはどのようなツールを使って、どのようにやりとりを行っていたのでしょうか? また生成AIの活用などはあったのでしょうか? 糸曽:私は新しいもの好きなので、AIは普段から活用しています。権利の問題があるのでそっくりそのままではありませんが、本作でもあくまでアイデア出しのたたき台部分において、例えば戦闘機のアイデア案を「DALL・E」で出力したりはしましたね。 あと、コミュニケーションツールはスタジオによってさまざまですが、本作では、株式会社サテライトでも採用されている「Chatwork」をメインのコミュニケーションツールとして使用しています。制作工程ごとにチャンネルを分け、それぞれのチャンネルで情報共有や意見交換などを行っていた他、週に2回、2時間程度の定例会議をオンラインで開催し、各セクションの進捗状況の確認や、問題点の共有などを行っていました。必要に応じて、個別のオンライン会議を設定することもありました。データのやりとりはクラウドサービスを利用しています。 河森監督と初めて一緒に仕事をした『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』(2021)の制作でも、コロナ禍ということもあり、一度も東京に行くことなく、リモートで演出作業を行っています。アフレコも、スタジオにいる音響監督や声優さんたちの協力のもと、リモートで実現できた経験が、本作のリモート・分散制作も面白いんじゃないか、と製作委員会や河森さんはじめ皆さん同意してくれたベースにあると思います。 ――なるほど。実写映像があれば、日常パートのイメージ共有は比較的容易だったと思いますが、アクションシーンとなると話は別ですよね。特に今回は新しい要素も取り入れられているとのことですが、どのように制作を進めたのでしょうか? 糸曽:はい。アクションシーンは、さすがに絵コンテをきちんと描いて、CGディレクターとプリビズを作成し、それを基に打ち合わせを行いました。特に今回は、過去神話編の制作に力を入れています。 ※プリビズ:プリビジュアライゼーションの略。CGを用いて、実際の映像に近い形で、カメラワークやキャラクターの動きなどを事前に確認するための映像のこと 実は、過去神話編は「目指せ『アーケイン』」(※2021年にNetflixで配信されたゲーム原作のフル3DCGアニメ)を合言葉に、全て絵画タッチの3DCGで制作しています。あの作品のような、絵画のような映像表現を目指しました。 このパートのキャラクターデザインは、森山佑樹さんにお願いしています。森山さんは、3DCGアニメーションの制作を得意とするポリゴンピクチュアズで、「シドニアの騎士」(2014)や「亜人」(2015)のキャラクターデザインを手掛けられた方です。過去神話編と現代編で、ビジュアルスタイルをガラリと変えることで、それぞれの時代の雰囲気の違いを表現しています。 ――現世はデフォルメキャラですが、前世はリアル路線という対比になっていますね 糸曽:そうですね。私は「奇をてらって、視聴者の心をつかむ」のが好きなんです(笑)。そこで、今回は思い切って、これまでになかった斬新なビジュアルに挑戦してみました。現代編のデフォルメされたキャラクターと、過去神話編の絵画タッチの3DCG、そしてスタイリッシュなアクションシーン。これらの要素がどのように組み合わさり、どのような化学反応を起こすのか、私自身もドキドキしながら制作しています。結果がどうなるのか、ぜひ楽しみにしていてください。