「いやだ!病院で手足が縛られるのはもういや!」…施設入居者の家族に問われる覚悟「病院で”治療”するか、施設で”尊厳”を守るか」
2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル 介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務めた筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(髙口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。 『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第25回 『「血まみれになって前歯が3本も抜けた」…施設介護の90歳の母が病院で受けていた「衝撃的な措置」』より続く
揺れる心
前回の退院からしばらくは穏やかな日が続きましたが、千代子さんが今度はトイレで倒れてしまいました。職員がそばについていたのでケガはなかったものの、目が開かない、話しかけてもほとんど反応がない、片側の手足がだらんとしているという状態で、見るからに脳卒中であるのがわかりました。 家族に連絡すると、2人姉妹の妹さんのほうがすぐに駆けつけてきました。そして、施設の医師に、 「脳卒中だと思いますよ。今から病院に行けば救急対応をしてもらえると思います。知っている先生がいる病院に紹介状を書きますから、すぐに救急車を呼んでそちらに行きましょうか」 と聞かれると、 「はい、そうしてください」 と答えました。 退院したときには、 「病院では血まみれになって抵抗しても縛られてました。どんなにありがたい治療かもしれないけれど、もうこりごりです。それに、痛みは抑えられてもがんは治せない、もう何が起こってもおかしくない体なんだということもよくわかりましたから、2度と病院には行きません」 と話していたにもかかわらずです。強い決心があっても、いざ苦しんでいる親を目のあたりにすると、やはり家族の気持ちは揺れます。