ラーズ・ヌートバー メン・オブ・ザ・イヤー・ブレイクスルー・ベースボール・プレイヤー賞──WBC制覇を牽引したカリフォルニア育ちの侍戦士
ベストゲームは韓国戦
ヌートバー自身のベストゲームは、3月10日、韓国との大一番だという。3回に先発ダルビッシュ有が韓国打線に捕まり、3点のビハインドを背負った。嫌な流れを変えたのは、韓国戦の難しさ、怖さを知らないヌートバーだ。韓国先発のキム・グァンヒョンから痛烈なタイムリーを放った。リードオフマンは塁上で吠えた。 「自分にとってターニングポイントでした。チームが0-3で負けていて、(フルカウントから)初タイムリーを打ったのです。大事な1点を返した時は、思わず叫びました。溜めていた感情が一気に溢れ出たのかもしれません」 このタイムリーをきっかけに勢いに乗ったチームは13-4と韓国に逆転勝利。試合後、初のヒーローインタビューに登場すると、「ニッポン大好き、みんなありがとー!」と日本語で絶叫。侍ジャパン、スタンド、大げさに言えば、日本が一つになった瞬間だった。
決勝のラストシーンは、大谷翔平とアメリカ代表のマイク・トラウトとの激突だった。エンゼルスのチームメイト同士による最後の直接対決、「漫画のようなストーリーだ」とも言われたあの場面、ヌートバーは守備位置から見守った。 「ハラハラドキドキでしたね。トラウトはメジャーリーグ屈指の最強打者の1人ですから、油断はできなかった。世界一のベースボールIQを持つ翔平でさえ、途中から感情が高ぶっているのがわかりました。すごい気迫でした」 ヌートバーはあの場面を野球少年のようなキラキラとした瞳で振り返ったが、話がWBCの意義に及ぶと、笑顔を封印して意志的な視線を向けてきた。日系初の侍ジャパン選手にとって大事なところだったのだろう。言葉を選ぶように、落ち着いたトーンで慎重に語り出した。 「今回のWBCを通じて、アメリカのベースボール・ファンは素晴らしい日本人選手をたくさん発見しました。大会自体もアメリカ国内で認知されたのではないでしょうか。私は日系アメリカ人であることを誇りに思っています。野球が自分の職業になった後も、日本の野球文化を代表している責任を感じてきました。今回侍ジャパンでプレイすることができて、野球選手としての視野が広がったように思います。自分のプレイを通して、スポーツの可能性、多様性を認め合う大切さを証明できたのであれば、それは素晴らしく、誇らしいことです」 「日本語は上手に話せません」と語る侍は、持ち前の明るさ、誠実な人柄、謙虚な振る舞い、日本への愛情をもって、日本人の心を掴んだ。「もし選出されれば」と本人は謙遜するが、次の大会、2026年のWBCにも侍ジャパンで出場する意欲を隠さなかった。
【関連記事】
- ラーズ・ヌートバー メン・オブ・ザ・イヤー・ブレイクスルー・ベースボール・プレイヤー賞──WBC制覇を牽引したカリフォルニア育ちの侍戦士
- 吉田正尚 メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・ベースボール・プレイヤー賞──フルスイングの侍は、メジャーでも“頂”を目指す
- 「GQ MEN OF THE YEAR 2023」授賞式──2023年のヒーローは、日本と世界を繋ぐ才能たち
- 【エンゼルス・大谷翔平】番記者が語る“オオタニ”の素顔とは?──『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』
- 役所広司 メン・オブ・ザ・イヤー・レジェンダリー・アクター賞 ──芸歴45年のベテラン俳優、パーフェクトな日常