高尾美穂医師 「できないことがある」気づいたら手放そう AGフレンズ
「見たいもの以外にも触れる機会に」
――ニュースやさまざまな情報は、主に何から得ていますか? 新聞や月刊誌、特に文字ばかりの出版物が多いですね。自分が見たいと思っている以外のものにも触れる機会になるので、その点がデジタルとは違います。 ――本をネットで買おうとすると、似たような傾向の本がレコメンドで表示されます。それよりは本屋さんに行く方が、幅が広がりますよね。 本を選ぶときも、私は意識して本屋さんの中をあちこち回るようにしています。みんなだいたい自分の好きな道順で本屋さんの中を巡りますよね。私だったらまず健康やヨガ、ピラティスの辺りに行って、哲学に寄って、最後の最後に平積みコーナーをとりあえず見る、みたいになりがちです。でも、それだと似たような情報しか入ってこないし、似たような考え方しか生まれないと思うので。 ――本はたくさん読みますか? 相当読みます。だいたい4、5冊をあちこちに置いて、並列で読んでいます。クリニックの外来にも1冊置いてあるし、自宅のトイレにも置いてあります。本を読む時間をなかなか長く確保できないので、この時間に本が読めるかも、というとき、そこに本があるようにしています。あと、自分の主観だけで買うと偏るので、誰かに勧められた本は必ず買うようにしています。
「自分の時間をどう使うかは、自分次第」
――著書『こうしたらきっとうまくいく 心がフワッと軽くなる82のヒント』の中に、「大変なことが起きたときやつらい言葉を耳にしたとき、『流れ弾に当たった』と思って手放すのがいいときもあります」という一文があります。 嫌なことがあったときに「運が悪かった」と言ってしまうと、人生全体の運が悪いように思いがちで、それよりは「流れ弾に当たった」ととらえる方が、たまたま、といった感じが伝わるのではないかと思っています。いいとも悪いとも決めつけていないし、たとえば、出血していたら止血して傷が治るように栄養をとるとか、何か具体的にできることを自分なりに見つけていきますよね? その方が一歩一歩、次のステップに踏み込みやすいと思うので。 ――AG世代は、家事や仕事、育児、親の介護など、やらないといけないことが多い一方で、できないことも少しずつ増えていきます。若い頃は勢いで乗り切れたり、100%の力でできたりしたことが、年齢を重ねてうまくできなくなってくるので、落ち込むことも増える気がします。 たとえば、骨が折れやすくなる、体力が落ちるといった一般的な加齢による変化は、この世代の誰もが経験していくわけで、そこまで否定的に考える必要は全くないんですよ。今、良くないことが起きているから、またさらに良くないことが起きるんじゃないか、みたいな未来への不安は、本来は持たなくていいはずで、先々を否定的に考えてしまうのは、少しずつ自信が失われていくからでしょうね。 ――自分だけ休みづらい、休みをとりにくいと思ってしまうのも、この世代の特徴かもしれません。 おそらく、昭和の呪縛(じゅばく)のようなものが残る最後の世代で、気合で乗り切ることができるか、と聞かれたら、たぶん、できてしまう人たち。さらに一つ上の世代の気持ちもわからなくもないから、いただいたものをここで絶えさせてはいけないと、頑張ってしまう。でも、家族や仕事など、自分のこと以外に使う時間の割合がとても大きい世代なので、「全部背負うのは無理だよね」と、早く気づいた方が楽だと思います。 ――気がついたら手放せばいいのでしょうか? できないことが増えるのは年齢を重ねていく上での変化とも言えるし、できないことがあると気がついていくのはある意味「悟り」で、年齢を重ねる楽しみでもあると思っています。子どもだと「できるようになりなさい」と言われるけれど、私たちは「できないことがあるよね」と開き直っていい世代なんですよ。 自分以外にその分野を得意とする人がいるなら、その人に任せればいい。社会にもアウトソーシングという言葉があるのに、できないことを悲観的にとらえるのはなぜか、と考えると、おしなべて、「何でもできるようにしよう」とめざしてきた世代だからでしょうね。でも本来めざすのは、そこじゃなくていいんですよ。 Aging Gracefullyでは、(松本)千登世さんは美容の専門家、村田(貴子)さんはお金の専門家、私はヘルスケアの専門家です。自分には専門がないと思う人もいるだろうけど、自分が当たり前にできていることを、隣にいる人は当たり前にできないかもしれない。実はその人にとっての強みかもしれない。そういう視点で、自分が得意なことや好きなこと、続けてきたことを眺めてみてください。 ――自分自身を見つめ直すと、発想の転換につながりますね。 AG世代は、子どもがいても、鍵があれば一人で、家で待てるぐらいの年齢になっている方が多いし、仕事を続けていても、親の介護があったとしても、自分の時間をどう使うかは自分次第。何かやりたいことや行きたいところがあるかどうか、会ってみたい人がいないかを、自分自身に問いかけてみてはどうでしょう? 5分あったらできること、一日あったらできること、一年あったらできるかもしれないこと、というぐらいの時間の単位で分けて、箇条書きにしておくことをおすすめしたいです。 ■著者プロフィール 高尾 美穂(たかお みほ)さん 産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。 東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージやライフスタイルに合った治療法を提示して、選択をサポートしている。NHK「あさイチ」などTV番組への出演や、WEB連載、SNS発信のほか、音声配信アプリstand.fmで配信する番組「高尾美穂からのリアルボイス」は、総再生回数が1440万回を超える。最近は音声配信Voicyで「高尾美穂からのリアルボイス」ショート版をスタート。特にからだのご相談に対し、短く濃い内容をお届けしている。近著に『あしたはきっと大丈夫 心が晴れることば』(コスミック出版)、『こうしたらきっとうまくいく 心がフワッと軽くなる82のヒント』(扶桑社)、『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 更年期 そしてなりたい自分に近づく方法』(新星出版社)、『教えて美穂先生! 50歳からのこころとからだ』(ビジネス社)、『わたしの人生の悩みは女性ホルモンを味方にすれば解決する』(晋遊舎)、『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)、『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)など。 取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子 写真=品田裕美撮影
朝日新聞社