「夜寝ている間」も、「生まれたばかりの赤ん坊」でも呼吸ができるワケ
「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか? 簡単に言えば「内臓の働きを調整している神経」。全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。 【写真】ついにわかった「ジムに行かなくても体力がつく」すごい方法 *本記事は『自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか』を抜粋・再編集したものです。
運動神経と自律神経が関わる呼吸
情動は自律機能のほかに運動機能にも影響します。たとえば不安になると、呼吸が速くなったりしますね。呼吸は運動機能のひとつなのです。 私たちは無意識のうちに息をし、無意識のうちに心臓は鼓動をうっています。呼吸も鼓動も同じように無意識に行われるのに、なぜ血圧や心拍は「自律機能」といわれ、呼吸は「運動機能」といわれるのでしょう? その答えはそれぞれの機能に関わっている筋肉と神経の違いにあります。 第1章でお話ししたように、心臓の筋肉である心筋は不随意筋でしたね。不随意筋の収縮は自律神経が担っています。 一方の肺を広げている筋肉は随意筋です。随意筋というのは手や足の筋肉と同じ骨格筋のことでしたね。骨格筋の収縮を担っているのは運動神経ですから、呼吸は運動神経の働きによって行われているわけです。
運動神経による呼吸の仕組み
運動神経の働きによって呼吸が行われる仕組みとはどういうものでしょう? 安静時の呼吸をするうえで、もっとも重要なのは横隔膜という筋肉。この筋肉は胸とおなかの間にあり、筋肉が収縮すると、肺の下側が引っ張られ、そのことによって肺が広がり、広がった肺に外部から空気が流れ込むのです。横隔膜が緩むと、肺は元の大きさに戻り、二酸化炭素を多めに含んだ空気が肺から外に出ていきます。こうして横隔膜の収縮と弛緩を繰り返すことによって、私たちは息をしているわけです。 横隔膜につながっている神経は、横隔神経という運動神経。この神経の活動が高まると横隔膜は収縮できます。横隔神経は頸髄から出ているため、頸髄損傷の度合いによっては自発呼吸ができなくなってしまうのです。 横隔神経は意識的制御のきく随意神経ですから、私たちは呼吸をある程度は調節できます。たとえば、ほんの一瞬なら息を止められますね。呼吸を速めることも遅くすることもできるでしょう。これに対し、自律神経は不随意神経ですから、心臓の鼓動は一瞬たりとも止められません。 意識的制御のきく呼吸ですが、意識して呼吸をしている人はほとんどいないでしょう。呼吸を一瞬なら止められても、ずっと止め続けることもできません。これは呼吸が自動的に制御されているため。呼吸の自動制御は脳幹の延髄で行われています。夜寝ている間も、生まれたばかりの赤ん坊でも呼吸ができるのは、延髄で呼吸を自動制御しているためです。