「神絵が1分で生成される」 進化するAI、イラストレーターの仕事を奪うのか
どう付加価値をつけて生き残るか
AIの襲来は確かに恐怖だが、イラストレーションの世界がそれで一気に塗り替えられてしまうわけではない。 1979年創刊の雑誌「イラストレーション」は、プロを目指す人のための情報を提供してきた。編集長の竹内康彦さんは、イラストを発注する側と接する機会も多い。 「現時点で多くのクライアントさんは、AIを使って描かれたイラストレーションを採用することに積極的ではないと思います。主な理由は、AIで生成されたイラストの著作権について、どのようなときに認められるか、あるいは認められないかが法的に定まっていないからです。発注側は、イラストレーターがどのような方法でそのイラストを作成したのかを正確に把握することが難しいので、AIを使ったとしたらどのように使ったかが気になるでしょうし、他者の著作権を侵害していないかをより慎重に判断すると思います。リスクがある以上、契約書でAIに関する取り決めを結ぶことが一般的になるかもしれません」 画像生成AIが普及し切るまでには、まだしばらく時間がある。そのあいだになすべきことは何か。
イラストレーターの誉田哲朗さんは、フリーランスで活動するイラストレーターやグラフィックデザイナー、ウェブデザイナーのための組合(日本イラストレーション協会)の代表理事を務める。30年近いキャリアの中で、テクノロジーの栄枯盛衰を見てきた。 「どんなものにも成長と衰退がありますよね。今はAIがトレンドワードになっていますが、僕がプロとして活動しているあいだですでに2度目、3度目ぐらいなんです。新しいインフラが登場するのは」 誉田さんが独立したころはペンと定規で線を引いていたが、線はMacが引いてくれるようになった。Photoshopの普及はエアブラシの技術を古びさせた。 「今、Midjourney(画像生成AIサービスの一つ)使ってみた動画であるとか、生成途中のタイムラプスがバズったりしていますが、(アドビの)IllustratorやPhotoshopが出たときに、それのノウハウ本が書店にびっしり並んだのと、現象としては同じことが起こっているだけだと思っています。若い子たちがざわざわしているのは、まだ軸となるものがないからだと思うんですよ。アプリケーションがなくても絵が描ける人たちには、関係ないんですよね。より便利な道具にシフトするだけなので。大事なのは、『イメージする力』なんです」 「もちろん、変化の波についていくのがつらい人はいて、しかも高い技術を持っている人ほど次に移りづらいという問題はあるので、そういった人たちが次の時代に進むまでのあいだ(教育訓練や社会保障などで)支えてあげることは必要です」 それも組合が果たすべき役目の一つ、と誉田さんは語る。しかし、イラストレーションという営みそのものが続いていくことは疑っていない。 「どうやって付加価値をつけて生き残っていくかというのは、頭をやわらかくして考え出すしかないんだろうなと思っています。でも、人類の文明がある限り、イラストレーションという行為はなくならない。それぞれの置かれている場所で明らかにしたいことや、誰かに伝えたい想いがあって、それを表現したいという意欲がある限り、表現者の世界は、変化を内包しながらも続いていくのです」