「内部留保はけしからん」との批判は正しい? 企業の現金貯め込みの実情
現金以外にも過去最高を更新している項目とは?
ここでもうひとつ認識しておきたいのは、現金以外にも過去最高を更新している項目が存在するということです。貸借対照表に目を向けると、工場・機械などが計上される「有形固定資産」がさほど増えていない一方で、果敢な海外企業の買収や海外現地法人の設立を映じて「株式」が著しく増加し、過去最高となっています。要するに日本企業は国内での設備投資はさほど増やしていないものの、一方で海外企業の買収や設立に資金を投じてきたわけです。また、損益計算書項目に目を向ければ、企業の利益額や売上高経常利益率が過去最高です。企業の現金が増えるのは「好業績の結果」であるとの見方もできます。日本企業が闇雲に現金を積み上げているとは言い切れないのではないでしょうか?
最後に「総資産に占める現預金の割合」に目を向けると、一般的な批判とは裏腹に企業が保有する現金は総資産見合いでしか増えていないことがわかります。企業の保有する現金の表面的な残高が注目の的になっていますが、総資産との割合でみれば「内部留保課税」が話題となる遥か昔の90年代よりも低い水準にあります。「使うあてがない現金を貯め込んでいる」という指摘が本当に正しいなら、総資産に占める割合が上昇しているのが自然だと思いますが、そうなっていないのは“それなりに現金が有効活用されている”ことを物語っています。「内部留保」と「保有現金」が過去最高という表面的な事実をもって、「現金が貯め込まれている」と批判することに違和感を覚えます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。