ブラジルのリーグ戦再開にボタフォゴMF本田圭佑が「再開の論理的理由を知りたい私は狂っているのか」と異議を唱える
各州の知事らから冷ややかな視線を送られているボルソナーロ大統領はサッカー好きで知られ、公式戦の再開を強く要望してきた。そうした状況下でリオデジャネイロ州に本拠地を置くボタフォゴのライバル、ヴァスコ・ダ・ガマも再開賛成に回り、5月下旬にはすすんで一斉のPCR検査を行った。 しかし、その結果として大量の陽性反応者が出た。PCR検査を受けた43人の選手のうち、実に約44.2%にあたる19人の新型コロナウイルス感染が発覚したことが先月31日に発表されている。深刻な状況を受けて「これでまた延期が長引くと思う」と日本語でツイートした本田は、その後も新型コロナウイルスをめぐるブラジル国内の認識を疑問視する英文の投稿を連発している。 <Please don’t be optimistic. stay safe>(状況を楽観視しないように。安全第一でいこう) <Covid-19, we have not seen peak here yet, have you?>(新型コロナウイルスに関しては、ここ(ブラジル)ではまだピークを見ていませんよね?) 昨年末にフィテッセを退団した後は無所属となっていた本田は、1月下旬にボタフォゴへ加入。試合から遠ざかっていたこともあってコンディション調整に時間を要し、さらに選手登録の遅れやインフルエンザに感染したこともあって、新天地でのデビューは延び延びになった。迎えた現地時間3月15日に、ホームにバングーACを迎えたリオデジャネイロ州選手権の後半戦、タッサ・リオ第3節で日本代表でもお馴染みだった「4番」を背負って先発。両チームともに無得点で迎えた前半28分には、味方が獲得したPKを託されて冷静沈着に決めている。 試合は引き分けたものの、個人として幸先のいいスタートを切ったと思われた直後からブラジル国内の公式戦はすべて中断。来夏に延期された東京五輪へオーバーエイジ枠で参戦する目標をあきらめていない本田は、自宅でのトレーニングを積みながらブラジル国内における感染が収束するのを待っていた。 しかし、感染防止対策を軽視するボルソナーロ大統領の存在もあって、状況は悪化の一途をたどるばかりだった。ボタフォゴも現地時間9日から選手をはじめ鹿島アントラーズやセレッソ大阪で指揮を執ったパウロ・アウトゥオリ監督以下の首脳陣、クラブスタッフや家族に対してPCR検査を実施。氏名は非公表だったものの5選手の感染が判明したことで、早期再開に反対する意思を鮮明に打ち出した。 リオデジャネイロ州内を見れば4強とされるクラブのうち、ヴァスコ・ダ・ガマとフラメンゴが早期再開を望み、ボタフォゴとフルミネンセが反対に回っている。ただ、無観客のもとでリザーブ選手にマスク着用を義務づけるなどの対策を取れば問題ない、という意見が大勢を占めつつある。 選手である以上は、本田も公式戦のピッチに立ちたい。それでも一人の人間である以上は安全が保証されず、最悪の場合は命まで脅かされかねない状況下でのプレーは避けたい。冒頭で記した英文のツイートには言うまでもなく、本田の偽らざる本音が反映されている。 経済を回す象徴として、国民的スポーツのサッカーを半ば強引に再開させる動きに国民も強い関心を抱いているのだろう。文中に<crazy>と綴りながら疑問を投げかけた本田のツイートに対して、動画投稿サイト『YouTube』から人気に火がついたブラジルの新星コメディアン、フェリペ・ネトは和訳すれば次のようになるポルトガル語のリプライを送っている。 「いいえ、あなたは狂ってはいません。あなたは狂った犯罪者によって統治された国にいます」 たとえ再開するにしても最低でも2週間の準備期間が必要だとして、ボタフォゴはカボフリエンセ戦の延期を要求している。 しかし、リオデジャネイロ州サッカー連盟が発表したスケジュールでは、日本時間19日にバングー対フラメンゴの再開初戦が組まれている。国民や本田を含めたサッカー関係者のコンセンサスが得られないまま、ブラジルサッカー界が危険な見切り発車に出ようとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)