『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』マルグレート・オリン監督 5番目の季節を撮る理由【Director’s Interview Vol.434】
撮影はイメージを集めること
Q:ドローンをはじめ最新の撮影技術を駆使してオルデダーレンが捉えられていますが、これまでのネイチャードキュメンタリーとは不思議と印象が違いました。カメラマンやスタッフにはどのようなことを伝えましたか。 オリン:メインの撮影監督にドローンオペレーターが2人、水中撮影をするダイバー、動物を刺激しないように個別に動いてくれたカメラマンが3人、そして他のカメラマンも含めて計9人に撮影をお願いしました。彼ら全員に伝えたのは「私たちはイメージを作るわけではありません、既にそこにあるイメージを集めるのです」ということでした。 5歳のときに父に初めて氷河に連れて行ってもらったのですが、風がクレバスに入り込む音がまるで音楽のように聞こえました。「下にオーケストラがいるの?」と聞くと、父は「君にも聞こえるのかい?」と言ってくれた。決して「そんなものはいないよ」とは言わなかったのです。そのおかげで、私は自然の神秘に興味を持ったのだと思います。クルーにもそういった感覚を信じて欲しいと伝えました。「自然の音に耳を澄ませてください。風は音楽を奏でているのです」と。 観客の皆さんには、オルデダーレンで生まれ育った人のように自然を見て欲しいですね。息を呑む美しさを体感しながら、同時に危険があることも感じて欲しい。そこで生きている人たちは、これまで常に危険と隣り合わせでした。自然とのバランス、そして自然に対する尊敬の気持ちも忘れてはいけない。そういったことも映像に写したつもりです。 Q:本作は映像の持つ力を感じさせてくれました。今後はどんな映画を作っていきたいですか。 オリン:10月に「Song to mother(母に捧げる歌)」という小説を上梓します。実は去年の8月に母を亡くしました。それは全く予期せぬ出来事でした。母が私にくれた思い出や物語をしっかりと残しておかなければならない。そう思って数ヶ月前から小説を書き始めました。これはむしろ書かざるを得なかった感じでしたね。 また、ネイチャードキュメンタリーも再度作りたいと思っています。今は投資家に話をして資金提供の相談をしています。企画開発やプリプロダクションはこれからですが、『Sense of Earth(地球の感覚)』というタイトルを予定していて、もう一度自然の中に深く飛び込んでいくつもりです。自然に飛び込むのは私にとって大切なことだと今回よく分かりましたから。 Q:では最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。 オリン:オルデダーレンには日本の方々も来てくださっていて、父は日本の方を氷河に案内したことがあるそうです。「日本の皆さんによろしくお伝えください」と父から言付かりました。 また、私の長編ドキュメンタリー『In the House of Angels』(98)という作品は、当時「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に招待されました。私自身初めての映画祭でしたが、山形の皆さんにとてもよくしていただき、スタッフのお家で食事をご馳走になるなど、素晴らしい経験をすることが出来ました。映画祭ってこんなに素敵なのだと思っていたら、他の映画祭はそうでもなかった。ちょっとガッカリしたくらいです(笑)。 この映画が日本で公開されることを本当に嬉しく思っています。 監督:マルグレート・オリン 1970年、ノルウェー・ストランダ生まれ。ノルウェーの映画監督、脚本家、映画プロデューサーである彼女は、社会の弱者に焦点を当てたドキュメンタリーでよく知られており、映画祭での受賞歴も多数。2014年、ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を手掛けた建築オムニバス・ドキュメンタリー『もしも建物が話せたら』では、建築家スノヘッタのオスロ・オペラハウスのパートを手掛ける。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』 9月20日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネマート新宿ほか全国公開 配給:トランスフォーマー © 2023 Speranza Film AS
香田史生
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