『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』マルグレート・オリン監督 5番目の季節を撮る理由【Director’s Interview Vol.434】
両親を撮るという思い
Q:ご両親を撮ることに対しては、どのような思いがありましたか。 オリン:9年前、私のパートナーが脳梗塞を起こして昏睡状態に陥ってしまいました。その事実は受け入れ難く、これから私はどうやって生きていけば良いのだろうと…。人生が大きく変わる出来事だったこともあり、母にアドバイスを求めました。すると母は「以前から、お父さんが自然の中を歩いているところを撮りたいと言っていたけれど、お父さんはもう84歳、あまり時間がないんだよ。今すぐ撮った方がいいんじゃないの?」と言ってくれました。もっと父と一緒の時間を過ごさなければならない。確かにそうだと気付かされました。この映画を作ったのは、父と一緒に過ごすことに対する深い答えだったと思います。父の愛情の対象は“自然”ですが、父が一番大きな愛を抱いているのは紛れもなく“母”。父のことを描くためには母を撮ることも外せませんでした。 そして、いざ撮影しようと思ったタイミングでコロナ禍になってしまったのですが、「家に帰って、お父さんを撮りたい」と頼んだところ、快く迎え入れてくれました。「僕が山を歩いているところを撮るといい。君たちを山や氷河に連れていってあげるよ。僕の裏庭のガイドをしてあげよう」と言ってくれたんです。裏庭どころか、かなり大きな自然を見せてくれましたね(笑)。 また、私はドキュメンタリーを撮り始めて25年以上経ちますが、最初に作ったのは『My Uncle』という作品で、母の一番下の弟を撮ったものでした。彼はダウン症でしたが、母は弟をとても愛していて、私にとっても彼は近しい存在でした。しかし私が6~7歳になったころ、周りの人は私とは違う視点で叔父を見ているのだと気づきました。私にとって大事な人に対して、周りの人は違う見方をしている。それに気づいた時、私はストーリーテラーとなり叔父さんの話を語ろうと決めたんです。やがて私は勉強をして映画作りを覚え、初めてのドキュメンタリー映画『My Uncle』を作りました。母はとても喜んでくれましたね。 『My Uncle』は家族についての話で、叔父とその家族、私の母も出演しています。映画では、家族の秘密や恥についても語る必要があり、そこの部分は非常に難しかったのですが、一方で家族の美しさも描くことができました。そうして母とその家族についての映画を撮ったのですが、父についての映画はそこから25年待つことになるわけです(笑)。
【関連記事】
- 『トランスフォーマー/ONE』 ジョシュ・クーリー監督 おなじみの世界の「起源」を描く喜び【Director’s Interview Vol.433】
- 『ぼくが生きてる、ふたつの世界』呉美保監督 自分とリンクした、出会いがもたらす心の変化【Director’s Interview Vol.432】
- 『シュリ デジタルリマスター』カン・ジェギュ監督 デビュー作のおかげで新しい挑戦への躊躇がなくなった【Director’s Interview Vol.431】
- 『ヒットマン』リチャード・リンクレイター監督 ジャンルを合体させて見たことのないものを【Director’s Interview Vol.430】
- 『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督×河合優実 運命的に出会った二人が生み出したもの【Director’s Interview Vol.429】