『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』マルグレート・オリン監督 5番目の季節を撮る理由【Director’s Interview Vol.434】
スクリーンに広がる美しい大自然に、ただただ息を呑む。地球上でも有数の壮大なフィヨルドを誇る、ノルウェー西部の山岳地帯「オルデダーレン」。この渓谷に暮らす老夫婦の姿を、その娘でありドキュメンタリー作家のマルグレート・オリンが一年をかけて密着。シンプルに生きる両親の姿から、娘は人生の意味や生と死について学んでいく。マルグレート・オリン監督は、いかにして『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』を作り上げたのか。話を伺った。
『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』あらすじ
ノルウェーの人里離れた渓谷「オルデダーレン」。厳しくも美しい自然に囲まれた場所に、年老いた父母が生きている。成長し、作家となった娘が二人の姿をカメラに留めようとすると、84歳となった父親はこの国で最も美しい渓谷と呼ばれる場所を案内しながら、彼の人生と最愛の妻、そして何世代も自然と共に生きてきた人々の暮らしについて静かに語りはじめるのだった。
5番目の季節を撮る理由
Q:息を呑む驚くべき映像が捉えられていますが、映画の構成や内容は撮影前にどれくらい決まっていたのでしょうか。 オリン:春から順に四季を撮ることは最初から決めていました。父がどのようにして4つの季節を経験しているのか、それを見せたかったのです。ただ、5番目の季節として春を再撮影したのは予定外でした。父と一緒に「“命”というものは“死”よりも大きいのではないか」という話をしていると、父が「ぼくのために父(祖父)が130年前に植えてくれたトウヒの木がある。その隣に君(娘)のために新しい木を植えたい」と言ったんです。そして「冬というものは自然界における“死”を意味する。映画もそこで終わらない方が良い」と。四季が終わり、また新たに春が生まれる。それを見せることによって、“命”そのものは“死”よりも大きいと感じることが出来るのではないか。それでもう一度春を撮り、新しい木を植えることになりました。 春は新しい生命が生まれる時期。夏は色んなものが豊かになり、緑も青々として、虫や動物達が走り回り、太陽が爆発的に眩しくなる。やがて秋になり、それらがだんだんと落ち着いてくる。そして冬になると、あらゆるものが雪に覆われ死を迎えることになる。この変化はまさに人生そのもの。春は子供、夏は青春、秋で大人になり、冬で老年に至るのです。
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