ここからスタート! 新メンバー、中村玉太郎、尾上左近が語る「新春浅草歌舞伎」への意気込み
ダブルキャストでのぞむ『絵本太功記』
──では、上演される演目について、まずはおふたりが出演される『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」から教えてください。第1部では玉太郎さんが初菊を、第2部では今度は左近さんが初菊を演じられますね? 玉太郎 今回のように昼の第1部、夜の第2部で同じ演目をダブルキャストで上演する例はあまりないかもしれません。通しでご覧になる方には、役者による違いも体感していただけると思いますし、私たちにとってはそれも挑戦です。 ──『絵本太功記』は、武智光秀(史実では明智光秀)の謀反にまつわるドラマを描いた時代物の名作ですが、初菊についてはどのような役柄と捉えていますか。 玉太郎 初菊は、光秀の息子である十次郎の許嫁で、恋人同士ですね。この物語は家族のお話でもあり、初菊はその中で最も若い役ですから、若々しさ、可憐さが必要なお役です。「尼ヶ崎閑居の場」では、前半に十次郎と初菊との掛け合いがあり、ここが初菊の一番の見せ所に。十次郎に戦に行ってほしくない初菊は、その思いをこらえて送り出すわけですが、それでもつい、体は止めに行ってしまう──。初菊のその一途なところは、大事に演じなければいけないと思っています。私は(中村)魁春のおじさまに教わっているのですが、初菊の目線はいつも十次郎のことを意識し続けるように、と教えていただきました。 左近 「新春浅草歌舞伎」で『絵本太功記』を上演すると聞いたとき、多分、出演する俳優や、お客さまにも驚かれた方もいらしたかと思います。義太夫狂言の名作ですが、なかなか難しく、渋いお芝居なので…(笑) 玉太郎 あの……、今日は皆さんに歌舞伎を観ていただきたいという話なのだけど(笑)。 左近 そうですよね(笑)。でも、だからこそ、しっかり興味を持っていただくために、役者で見せなければいけないところがあると感じています。この作品は戦後、戦争で身内を亡くされた方たちの共感を得たという話を聞いたことがあります。いま、お客さまのそうした感情を引き出すのは難しいことですが、そこを、玉太郎のお兄さんがおっしゃったように、まず、初菊と十次郎の掛け合いの健気さを見せることが大切なのかな、と。その後で出てくる光秀の迫力、不気味さを際立たせるためにも、初菊と十次郎が舞台を作り上げていかないといけません。また、十次郎は裃から鎧に着替えるために一度奥へ引っ込みますが、初菊にはその間の時間をつなぐ役割も。十次郎の兜を引きずっていくところも、大きな見せ場ではないかと思います。 玉太郎 相手によって変わってくるところもありますね。私のときは鷹之資さんが十次郎、左近くんは鶴松さんとですが、おふたりがどのように動かれるかで初菊も変わってくると思います。 左近 私は(中村)時蔵のお兄さんに見ていただいているのですが、いろいろお話を伺うと、本当に役者によって違う。型はあるけれど、「そこは自分で考えて」とおっしゃってくださる部分もありますし、とくに十次郎が着替える間の合方、つまり演奏のスピードやノリは、毎日同じではありません。 玉太郎 生演奏というところも、歌舞伎の見どころのひとつですね。 ──第1部では左近さんは、染五郎さん演じる光秀の家臣、佐藤正清(史実では加藤清正)を演じられますね。 左近 最後の最後に花道から登場します。最終的には真柴久吉(史実では羽柴秀吉)、光秀、正清の3人で強引に幕を閉じるようなものですから、それだけの格好良さ、説得力がなければいけない。難しくない役などありませんが、これも大変な役だと思っています。