ここからスタート! 新メンバー、中村玉太郎、尾上左近が語る「新春浅草歌舞伎」への意気込み
お客さまとも一緒に歩む、これが第一歩
──第2部の『春調娘七種』では、鶴松さんとおふたりの共演が実現します。 玉太郎 華やかで、実にお正月らしい演目です。 左近 音楽と役者の拵え、背景の絵なども楽しんでいただけたらと思います。 玉太郎 出てくるのは曽我五郎・十郎という兄弟と静御前。バックボーンとしての物語はありますが、ここでそのお話が進むわけではありません。 左近 五郎・十郎の親の仇が工藤祐経で、源頼朝の家来。頼朝に追われて殺されたのが源義経でその恋人が静御前、つまりこの3人は仇が同じという繋がりですが、何故ここで一緒にいるのかはわかりません(笑)。義経や曽我兄弟を題材とした演目はたくさんありますが、そのヒロインと兄弟たちが一緒に出てくる踊りは他にはないですよね。 玉太郎 私たちの世代で、曽我兄弟に静御前と聞いて「おお!」と目を輝かせる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんが、いまで言うなら──さまざまなキャラクターが集まった「アベンジャーズ」のようなものです(笑)。私が演じる十郎は、和事と呼ばれ、立役ではありますが、少し線の柔らかい、端正な役柄です。 左近 私が演じる五郎は、荒事。むきみ隈という隈取りをした、荒々しく血気盛んな若者です。 玉太郎 パワー100%の力強い五郎に対し、十郎は一歩引いた感じを出すのが難しいところです。 左近 「新春浅草歌舞伎」はいろんな役をやらせていただく場ではありますが、私の家(尾上松緑家)としては五郎のほうの家系ですし、キャラクターとして好きなので、昔から仲良くさせていただいている玉太郎さんと兄弟をさせていただけるのは嬉しいですね。 玉太郎 以前、「いつかふたりで五郎十郎をやるかもね」と話をしていたんです。まあ、(左近は)覚えていないみたいだけれど……。 左近 (笑)。こういうところで役者同士が一緒になる様子を観ていただけるのも、「新春浅草歌舞伎」の魅力ですね。 ──また、第1部の『道行旅路の花聟 落人』で玉太郎さんが演じられるのは、鷺坂伴内。どのような思いで取り組まれるのでしょうか。 玉太郎 やらせていただけるとは思っていなかった役のひとつですので、大きな挑戦です。三枚目の敵役で、憎たらしいけれど面白くて可笑しいキャラクター。第1部のお姫さまとはだいぶギャップがありますが、役者としてはそこが楽しいところですね。『仮名手本忠臣蔵』の一場面で、主役はおかると勘平。伴内は仇討ちされるほうの高師直の家来で、勘平にとっては敵ですが、勘平の恋人であるおかるにちょっかいを出しにくる。最初はおかると勘平が清元で踊る華やかな場面ですが、伴内の登場で流れはガラリと変わり、舞台は一気に立廻りとなるわけですから、そのインパクトを大事にしたいです。この役は祖父(中村東蔵)と父(中村松江)に教わっています。先輩方の映像を拝見すると、台詞まわしから動きまで本当に皆さんそれぞれの色がある。これも型があるようでない役のひとつだと感じます。祖父や父のアドバイスに倣いながら、伸び伸びと演じるのを、お客さまに観ていただけたらと思っています。 ──多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたいですね。 玉太郎 初めて観るという方は、この「新春浅草歌舞伎」をきっかけに歌舞伎を観てくださるといいなと思っています。「『絵本太功記』を観た」と誇っていただけるように、この古典の大事な演目をしっかり勤めたいです。でも、歌舞伎には世話物から新作歌舞伎まで、本当にさまざまな演目がありますから、この「新春浅草歌舞伎」を、歌舞伎に親しむきっかけとしていただけたら嬉しく思います! 左近 これまで「新春浅草歌舞伎」を観てくださっていたお客さまに楽しんでいただくとともに、初めのお客さまにとっては、今回が、一緒に歩んでいただくその第一歩の公演となればと思います。役者の顔を覚え、追いかけていただくきっかけにもしていただきたいですし、そうなるよう、役者一同、一丸となって頑張ります。ぜひ、劇場に来ていただけたらと思っています! 取材・文:加藤智子 <公演情報> 「新春浅草歌舞伎」 【第1部】11:00~ 一、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」 二、『道行旅路の花聟 落人』 【第2部】15:00~ 一、『春調娘七種』 二、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」 三、『棒しばり』 出演: 中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松 ほか 2025年1月2日(木)~1月26日(日) ※19日(日) 第2部は、「着物で歌舞伎」開催 会場:東京・浅草公会堂