再評価される貨物列車 物流界に何が起きているのか?
物資を運ぶ列車は貨物と呼ばれます。日本全国で貨物列車を走らせているJR貨物は、1987(昭和62)年の国鉄分割民営化から毎年のように貨物輸送量を下げていきました。その原因は、道路網が整備されたことで小回りのきくトラック輸送に代替されたことです。しかし、アベノミクスの好景気が追い風になり、貨物列車が再評価されるようになってきました。物流業界にどんな変化が起きているのでしょうか。
1997年の京都議定書
JR貨物が発足した1987(昭和62)年、JR貨物の貨物輸送量は5627万トン、運輸収入は1568億円でした。2012年の貨物輸送量は2999万トン、運輸収支は1124億円とピーク時に比べて4割減です。 分割民営化時から政府内からもJR貨物不要論はありましたが、赤字が膨らむことで貨物不要論は強くなっていきました。しかし、1997(平成9)年に京都議定書が採択されたことで貨物列車への風向きが変わり始めます。 貨物列車は、トラック輸送に比べると格段に環境への負荷が少ないことがウリです。そのため、CO2排出量が少ない輸送手段に切り替える“モーダルシフト”は、CO2削減のためにも大きな注目を集めるようになってきたのです。運輸省(当時)は1991年からモーダルシフトを推進していたこともあり、物流業界でもそれらを後押しする動きが見られました。 2004(平成16)年、佐川急便が世界初の貨物電車“スーパーレールカーゴ”の運行を開始。これに刺激を受ける形で、2006(平成18)年にトヨタが貨物列車“トヨタロングパスエクスプレス”の運行を開始します。トヨタロングパスエクスプレスは、自動車部品を愛知県の工場から岩手県の向上まで輸送する列車です。
輸送力を増強したJR貨物
JR貨物も1992(平成4)年前後から輸送力を増強するために一編成を26両で運行できるように待避線を増設。貨物駅のコンテナホームの延伸・拡張工事にも着手し、電力施設も強化していました。これによって、一度に大量の物資を輸送できるようになっていたのです。 「JR貨物では荷物を積み込むコンテナの大型化も進めて、現在は31フィートコンテナが主流になっています。31フィートコンテナは10トントラックの荷物に相当しますので、トラックの荷物を列車に積み替える際の手間や時間が軽減されることになりました。また、事業者が列車予約をスムーズにできるようにGPSとICタグによる荷物管理を徹底するなど、IT化も推進しました。使い出がよくなったことが貨物列車の需要を掘り起こした一因なのかもしれません」(JR貨物総務部広報室) “モーダルシフト”は企業に浸透しましたが、トラック輸送の長所であるドアtoドアの利便性には及びませんでした。トラック輸送が物流の主役の座を譲ることはなかったのです。