パリ五輪を見据えた平野美宇・張本美和ペアが抱える課題とは? 大藤・横井ペアに敗戦も悲観は不要
平野・張本は決して弱くない、あとは…
第3ゲーム。ここから、大藤・横井ペアにエンジンがかかる。3-8と勢いがついて大量リード。ツッツキ合いの際の2人の動きが実にスムーズで3-9に。そのままこのゲームを取り切る。第2ゲームまでは、「内容的に“できていた”のに、たまたま点数とならなかった」のだとわかる光景だ。 第4ゲーム。4-6から激しいラリーがあった。ここでは逆に大藤の大振りのバックスマッシュが決まったと思ったところを、平野が待ち構えていて、バックブロックでカウンターが決まる。決して平野・張本がラリー力で負けているわけはないのだ。最後はジュースに。ここでも両ハンドの激しいラリーが続くが、平野のフォアハンドがエッジではなくサイドとなり、大藤・横井ペアが奪取。 第5ゲーム。このゲームも一進一退の攻防から開始。6-8となる場面では、張本のバックの深い所をえぐるように横井がフォアで突いた。このあたりは中国選手がやるような、「最後の最後に新たな一手」を使ってくるようなうまさがあった。 8-9から横井の巻き込みサーブの縦横回転を張本がミスして、8-10。そのまま試合が決まった。 点数差を見ればわかる通り、そして2-3というカウントを見てもわかる通り、大きな差はない。平野・張本ペアが「弱い」「頼りない」という声を上げるのは早計かもしれない。あと一歩の部分での歯車さえ噛み合っていれば、試合展開はまた違ったものになったはずだ。
もっと強烈な「得点パターンの方程式」を
とはいえ、パリ五輪の団体戦となれば、当然視界には卓球大国の中国が入ることになる。現状では、世界最高峰の選手が2人並ぶ中国ペアを日本が圧倒するイメージを持つ人は少ないかもしれない。 ではどうすればいいか? 大きな課題はやはり、平野・張本ペアには、これをやれば得点になるというパターンのようなものが見られないことではないか。「得点パターンの方程式」を確立したい。 もちろん、コンビを組んで、まだ日が浅いということもあるだろう。大藤・横井ペアにいたっては、高校時代からお互いの動きや回転量まで知りつくしている旧知の仲だからだ。 卓球競技のダブルスは、どちらも主役級の実力でありながらも、どちらかが、どちらかを“生かす”様な形も必要になる。 東京五輪の金メダリスト、水谷隼・伊藤美誠ペアで言えば、水谷は中陣・後陣から「完璧すぎる援護射撃」を放つイメージで戦っており、台に張り付いて“みまパンチ”(カウンターを含めたミート打ち)を、やりやすいように打たせているような印象もあった。 平野・張本は、どちらも前陣での攻撃型だ。特に極端に前陣の立ち位置で“ハリケーン”とも称される平野をどう“生かす”か。 張本が平野に打たせるように、中陣から上手なアシストをできるか。逆に、張本の決定力を生かすために、平野が台上プレーやチキータを駆使して張本に決定打を打たせるようなパターンを作り出せるか。こちらのパターンほうがイメージが湧いてくる。張本美和も決して台から大きく離れるタイプではなく、平野美宇の良さは台に張り付いていればいるほど発揮されるからだ。 平野と張本は、ともに「個の才能」が強烈だ。そのぶん、得点パターンの構築は難しいところもあるだろう。しかし、個性と才能が噛み合えば、取りこぼしのないダブルスへと仕上がる可能性はあるはず。お互いが、お互いを「うまく使う」こと。それはパートナーを「生かしてあげる」ことでもある。 大藤・横井のここにきての大ブレイクは、鮮烈なものがあった。日本女子卓球の層の厚さを見せつけた形だ。その一方で、パリ五輪はもうすぐそこまできている。 女子卓球団体戦の悲願、世界一。打倒中国においてダブルスでの勝利はとても重要になる。早田ひなはシングルスでの起用が予想されており、ダブルスでの勝利が期待されるのが平野美宇と張本美和。すべてはこの2人の両腕にかかっていると言っても、過言ではない。 <了>
文=本島修司