重度の火傷負った9歳女児も 緊急治療が必要な重傷者1万人、ガザを脱出できず
(CNN) 9歳のハナン・アケルさんと妹は、それぞれの手に1シェケル硬貨を握りしめていた。お菓子を買うために祖父からもらったお金だった。 【画像】病院のベッドで治療を受けるハナンさん パレスチナ自治区ガザ地区に暮らす2人の日常を、悲劇が襲った。 「音は何も聞こえなかった。見えたのは、ミサイルが落ちた時の赤い光だけだった」。ハナンさんはガザ中部にあるアクサ殉教者病院のベッドでそう振り返った。 顔と両手、胸部、脚の20%に火傷(やけど)を負い、顔の再建手術を受けたハナンさんの声はかすれていた。前を歩いていた5歳の妹、レーネさんにけがはなかった。 「隣にいた男性はバラバラになって血を流していて、ビルのコンクリートのブロックが私の上に落ちてきた」 ハナンさんのように重傷を負った患者は数千人がガザ地区からの医療避難を待ちながら、エジプトに通じる南部ラファの検問所が5月に閉鎖されたために脱出できずにいる。 父親はハナンさんを連れて病院に駆け込んだ。ハナンさんは顔面に食い込んだ破片を取り除く手術も受けたが、マフムード・マハネ医師によると、ガザではそれ以上できることがないという。 ほとんどの子どもは治療のために転院させる必要があるとマハネ医師は言う。「ここには治療法も道具もなく、物資の補給もない」 8カ月に及ぶ戦争でガザの医療は崩壊した。負傷した数万人のパレスチナ人を治療するために必要な医薬品や医師、電気の不足は命にかかわる。 唯一の希望はラファ検問所からエジプトへ脱出し、近隣国で治療を受けることだが、イスラエルが5月7日に同検問所を制圧・閉鎖したことで、その生命線は断たれた。
避難を必要とする1万人
世界保健機関(WHO)のヨルダン川西岸・ガザ地区代表、リック・ピーパーコーンさんによると、治療のためにガザから緊急避難させる必要がある患者は少なくとも1万人に上る。正確な数が把握できないことから、実際にはもっと多いはずだという。 「最も多いのは重度の外傷や脊椎(せきつい)損傷など戦争関連の負傷者だ。腫瘍(しゅよう)や心血管系疾患、呼吸疾患などの慢性疾患も多い」 今回の戦争が始まる前までは、1日に50~100人がガザ地区を離れてエルサレムやヨルダン川西岸で治療を受けていたという。しかし5月7日以降、患者は一人もラファ検問所を通過できず、重傷者が増えて絶望感が募る一方の状況にある。 「ラファ検問所はできるだけ早く再開する必要がある」とピーパーコーンさんは訴える。「さもなければ別の検問所や仕組みを設けるべき。これほどの重症患者を放置するわけにはいかない。ここから離れられずに亡くなった患者の数は現時点で推定できない」 ガザ南部のナセル病院小児科病棟でCNNの取材に応じたコーロウド・シャルキさんは、保育器から出すことを許された娘のマラクちゃんを初めて腕に抱いた。 マラクちゃんは4日前に生まれたばかり。医師によると、心臓に欠陥があって難しい手術を必要としているが、発電機や医療設備用の燃料が不足していてこの病院では手術ができないという。 「必要な処置はしてもらった」「けれど娘は早く(ガザから)転院させなければならないと言われた」。シャルキさんはそう訴え、「医師からは、あまり希望は持たない方がいいと告げられた。あまりにも辛(つら)い宣告だった」と涙を流した。