ミシュラン一つ星中華の姉妹店! バルという名の本格広東料理店、虎ノ門に現る
これを従来通り、丸鶏のまま塩をまぶした後、熱湯をかけて皮を張らせ、酢水に水飴を加えた皮水をかけたら半日しっかり干すという下準備が、“脆”の名の如きサクサクパリパリの食感を生む鍵となる。低温の油を回しかけながら、徐々に温度を上げじっくり火を入れていく。その按配も手練の技だ。
狐色の光沢を見せるクリスピーチキンは、香ばしい皮に対して身はしっとりと柔らかくジューシー。腿や胸、手羽など各部位を味わえるのも、1羽丸ごと調理すればこその醍醐味だろう。半羽でも3~4人で充分楽しめる。
また、中華版クレープといった可麗餅で、北京ダック風にスライスした脆皮鶏やきゅうり、ねぎ、紅芯大根を巻いて提供するスタイルも興味をそそる。同店ならではの一味違った食味が舌をリセットしてくれる。ちなみに、このクリスピーチキンは数量限定。どうしても食べたい時は、予約をした方が無難だろう。
クリスピーチキンが「中華バル サワダ」としての看板料理なら、吉田シェフ自身の(密かな)自信作は、“湯(タン)”ことスープ。開口一番「やっぱり僕はスープが好き。ゆくゆくはスープに力を入れていきたいと思っています」と力強く語る。そんな思い入れの詰まった一品がこれ。写真下の「菜胆燉花菇(花椎茸と白菜の蒸しスープ)」1,375円だ(スープは要予約)。
干し椎茸と白菜に加え、手羽先や枸杞、龍眼、生姜等々を入れ、水から蒸すこと約6時間。蓋を開ければ、それぞれの食材から滲み出た旨みや香りが渾然一体となって鼻先を擽る。それは、一口飲んで「おぉっ」と唸る旨さではなく、しみじみと舌に染み入るおいしさ――とでも言えばいいだろうか。
具の白菜も手羽先も、そして干し椎茸も取り立てて高価な食材ではなく、日常の延長にあるもの。そんなありふれた食材を、手間暇かけて逸品に仕上げる。そこに吉田シェフの真骨頂がある。殊更に奇を衒うわけでもなく、フカヒレはあるとはいえ、トリュフだキャビアだと高級食材に頼ることもしない。「当たり前のものを当たり前に作りたい」。そう静かに語る彼のこれからの挑戦に注目したい。