糾弾か熟考か 自動車メーカーがこぞって「不正」に走る根本理由 交錯する“正義”は糺せるのか?
不当な測定方法
この不正の内容は、国交省が1991(平成3)年に定めた 「惰行法」 と呼ばれる測定方法に沿わない形で燃費を測定していたことだった。 惰行法とは自動車を惰行させるように走らせて車にかかる抵抗を測定するもので、この走行抵抗をもとに燃費が算出される。 惰行法では、時速20kmから90kmまで10km単位の速度を基準とし、ギアをニュートラルにした状態から指定速度+5kmから指定速度-5kmになるまでの惰行させるように走らせる(基準が時速90kmなら時速95kmから85kmになるまで)。これを最低3回計測して、平均惰行速度を求め、車にかかる走行抵抗を測っていくというものだ。 ところが、三菱自動車は 「高速惰行法」 という時速150kmから惰行を始めるという方法で測定していた。スズキの不正も同じように惰行法を使用していないものだった。スズキは三菱自動車とは違い、 「装置毎の積上げ」 と呼ばれる方法で走行抵抗を測定していた。これは ・タイヤ ・ブレーキ ・ホイールベアリング ・サスペンション などの部品ごとの抵抗値を求めて、それらを合計することで自動車全体の走行抵抗を求める方式になる。スズキで対象になったのはアルト、アルト ラパン、ワゴンRなどの26車種にも及んだ。
惰行法の実施困難
なぜ両社は惰行法を使わずに「不正」を行ったのだろうか。 不正を認める記者会見のなかで、両社とも惰行法の難しさを語っている。三菱自動車によると、風や気温が変化しやすい日本では惰行法での測定が難しく、タイで測定を行っていたという。さらに調査報告書でも惰行法での測定は 「よほどの条件が整わない限り不可能であった」 と説明されている。 スズキも、記者会見において惰行法の難しさを指摘したうえで、燃費をよく見せるためではなく 「より正確な燃費を測定するため」 に惰行法を使わなかったと述べている。 三菱自動車の採用していた高速惰行法は米国で使用されていたコーストダウン法という測定方法をもとに開発されたものであり、スズキが「装置毎の積上げ」で測定していたのは 「欧州での認証を得るため」 にこのようなやり方で測定していたからだった。つまり、両社とも国際的に見れば 「正しい」 方式で測定したことになる。