糾弾か熟考か 自動車メーカーがこぞって「不正」に走る根本理由 交錯する“正義”は糺せるのか?
不正が起こる三要素
2023年はダイハツによる国の認証取得における不正が発覚し、2024年になってからはトヨタ、ホンダ、マツダなどのメーカーで同じく認証取得における不正が発覚した。 【画像】EV失速?復活? これが販売台数の「最新データ」です(計11枚) こうしたニュースを聞くと、企業の倫理観の欠如がこのような不正を生み出しているのだと考えてしまうが、今回紹介する中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社)は、そうではなく、組織内のある種の 「正しさ」 が不正の原因となっていると主張している。 不正がなぜ起こるのかという問題については、「不正のトライアングル」という考え方がある。これは不正が起こる要因を ・機会 ・動機(プレッシャー) ・正当化 の三つで説明しようとするものである。 まず、不正を行うにはその「機会」が必要であり、その機会を持った人に「動機」あるいは、そうせざるを得ないようなプレッシャーがかかっていることが必要になる。そして、この不正が何らかの理由で「正当化」されることが必要だというのだ。 もちろん、この三つの要因がそろったからといってすべての人が不正をするわけではない。ただし、三つの要因がそろうと、不正に無関心で不正をしようとは考えてもいない人が不正に走ることもあるという。 不正をする人間というと、周囲から孤立しているエゴイストのような人物像が想定されがちだが、社会学者のドナルド・パルマーによると、むしろ 「周囲に溶け込んでおり、自分や組織の成長のために働こうとする人」 が不正を働くという。2019年には大和ハウス工業で実務経験をごまかして施工管理技士の資格を不正に取得する事件があったが、これも個人や組織の成長を目指すための目標が大規模な組織的不正を生み出したケースだといえる。
燃費不正の実態
本書では、 ・三菱自動車やスズキによる燃費不正事件 ・東芝の不正会計事件 ・小林化工や日医工でのジェネリック医薬品の不正製造事件 ・大川原化工機事件 の四つのケースを分析しているが、ここでは本書の分析枠組みがうまく当てはまっていると思われる三菱自動車やスズキによる燃費不正事件を中心に、本書が提示する組織不正のロジックを紹介したい。 三菱自動車とスズキの燃費不正は2016年に発覚した。2015年にフォルクスワーゲンがディーゼルエンジンの排ガス規制を不正なソフトウエアを使ってクリアしていたことが明らかになってから、日本でも各社で燃費や排ガス検査における不正が明らかになった。 三菱自動車とスズキだけではなく、2018年にかけて、スバル、日産自動車、マツダなどでも燃費に関わる不正が明らかになっている。 三菱自動車とスズキの不正は、燃費の計測において国が定める測定方法を使用していなかった不正だった。 三菱自動車は日産とNMKVという会社を作り、そこからの委託生産という形でekワゴンなどで知られるekシリーズを生産していた。しかし、日産が燃費を計測したところ、三菱自動車が実際に測定していた実測値と国土交通省へ届け出ている届け出値が大きくかけ離れていることが判明し、三菱自動車側でも調べたところ、燃費試験のデータを不正に操作していたことが発覚した。 さらなる調査の結果、三菱自動車が過去10年間に製造・販売していた自動車においても燃費試験の不正が行われていたことが判明している。