岡田武史は、なぜ教育に人生をかけるのか。決断の裏に「極限状態」での原体験【インタビュー前編】
主体性を育てる「岡田メソッド」
主体性の育成は、岡田氏が会長を務めるFC今治でも指導の要になっています。主体的にプレーする自立・自律した選手とチームを育てることを目的とした、いわゆる「岡田メソッド」です。 岡田メソッドは、「守破離」の考えに基づいています。16歳までに徹底的にプレーモデルを体得させるのが「守」。プレーモデルの原則に基づき、自分で選択しながらプレーするのが「破」。原則は潜在的に意識しつつも、自由に考えて判断しながらプレーするのが「離」。これは、従来の国内チームでの指導とは逆のアプローチだと言います。 「日本では、小中学生までは自由にプレーさせ、高校生から戦術を教えるというのが一般的です。でもこれだと、プレー中に自分で判断して自由に動き、自分でゲームを作っていくという主体性が育ちづらいのではないかと考えています。 ある時スペインチームのコーチに、『スペインでは16歳までに徹底的に型を教えて、あとは選手の自由にさせている。だって、自分で判断してプレーするのがサッカーというスポーツだろう?』と言われて、なるほどそうだよなと。それで、これまでとは逆のスタイルで育成をするという、ある意味では実験を、FC今治で始めたんです」
遺伝子にスイッチが入ったあの日から、人生が変わった
「主体性」をキーワードに、FC今治で若手の育成にあたってきた岡田氏。自身の主体性は、どのように芽生えていったのでしょうか。 「我が家は、父が産婦人科医で忙しく当直も多く、母は病弱で入院していて。姉と二人、自分たちでなんとかするしかない環境で育ったんです。授業参観に親が来たことはほとんどありませんし、遠足には自分で握ったおにぎりと缶詰を持っていきました。そういうこともあって、主体性の芽生えというか、自立は早かったですね。まあ、やんちゃなこともしましたけれど(笑)、サッカーと出合えたおかげでなんとかまともな人間になれました」 サッカーにのめり込み、選手としても活躍した岡田氏ですが、「人生が変わり始めた」という明確なターニングポイントがあります。それは、1998年のワールドカップ予選、いわゆる「ジョホールバルの歓喜」を迎える前夜のことでした。