マルケス「超巨大な虫がはりついて…」想定外の視界不良が呼び寄せた“王者完全復活”を予期させる追走復活劇
虫が演出した追走劇
「グリッド上でティアオフ(捨てバイザー)を捨てちゃいけないというのはルールでは決まっていないが、ライダーたちとの話し合いでなるべく避けるようにしようということになっていた。でも、今回はスタート直前に大きな虫が貼りついて選択の余地がなかった。大きな虫が目の前にあって、まるで映画のスクリーンを見ているようだった」 その結果の追い上げは、図らずも世界中のファンを喜ばせることになった。マルケスにとっても、この優勝は絶対王者復活とライダーとしてのポテンシャルの高さを存分にアピールするものだった。 勝因はマルケスのハードなブレーキングにある。特にヘアピンの4コーナーでのブレーキングでは、マルティンやバニャイアとの違いが際立っていた。今シーズンだけを見れば、ハードブレーキングの強さでは、マルケスとマルティンはほぼ同等だが、このレースでは大きな違いを感じた。 マルティンがブレーキングを開始する位置はマルケスより深い(遅い)が、そこからの減速はマルケスが絶妙。つまり、マルケスは一瞬マルティンに離されるが、その後スルスルッと差を縮め、コーナーリングを開始する時点ではマルティンの前に出ているのだ。 マルケスのブレーキングは圧倒的な強さを見せたホンダ時代から独特で、誰にも真似できないものだった。ブレーキングしたときリアが浮いている状態でも、そのままマシンをバンクさせていく。その後、リアタイヤが接地したときにどういう挙動になるのか想像するのも恐ろしい。 常人なら転倒するか、転倒しなくてもバランスを崩してオーバーランすることになるのだが、マルケスはそれを見事にコントロールする。それがマルケスの圧倒的な強さにつながっていたのだが、ホンダの低迷期からドゥカティに移籍した1年目の今季にかけては、その強みが出ていなかった。今回のマルティンとのバトルも往時のスペシャル感には及ばなかったが、ドゥカティをかなりのレベルで乗りこなしていることを感じさせた。
ハイスピードコースで連勝なるか
次戦タイGPもフィリップアイランドと同様に、レースのアベレージスピードが180キロを超える戦いとなる。シーズンを通しても屈指の2つのハイスピードコースを、マルケスはこれまで何度も制してきた。マルティンとバニャイアのチャンピオン争いを横目にマルケスが連勝する可能性も十分ある。来季のマルケスはドゥカティワークス入りが決まって、いよいよマシンの差もなくなる。オーストラリアGPでの優勝は、絶対王者復活の序章だったのかもしれない。
(「モーターサイクル・レース・ダイアリーズ」遠藤智 = 文)
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