彬子女王殿下に、日本美術コレクターのジョー・プライス氏が伝えた「日本人が忘れてはならないこと」
新しい出会いから、新しい気づきや学びを得る――。 かつて英国のオックスフォード大学マートン・コレッジに留学し、博士号を取得された彬子女王殿下は、留学期間中に体調を崩され、休養期間をとられたことがありました。 その時期にお会いになったジョー・プライス氏(2023年4月逝去)に、「現代の日本人が気にしていない、でも忘れてはならないとても大切なこと」を気づかされ、学びを得られたのだそうです。 ※本稿は彬子女王著『赤と青のガウン』(PHP文庫)より、一部を抜粋編集したものです。
ジョー・プライスさんと日本美術、そして伊藤若冲
ジョー・プライス。日本美術が好きな人であれば、一度は聞いたことのある名前だろう。「奇想の画師」といわれる伊藤若冲(じゃくちゅう)を、日本美術の世界の人気者にした立役者の一人である。 ジョーさんは、アメリカのオクラホマ出身。お父さまは石油パイプラインで財を成した富豪で、ジョーさんはその関係から以前は石油パイプラインのエンジニアだったのだそうだ。 あるときジョーさんはお父さまの会社の建物の設計を、帝国ホテルを設計したことで有名なフランク・ロイド・ライトに頼んだ。ライトは日本美術に造詣が深かったことで知られるが、彼に連れられていったニューヨークの古美術商で、偶然伊藤若冲の作品に出合ったのだそうだ。 その作品を気に入り、購入したことをきっかけにして、江戸時代の絵画、とくに若冲の作品を集めるようになる。そうして蒐集されてきたプライス・コレクションは、長い期間をかけて質量ともに世界有数の江戸絵画コレクションとなったのである。 その噂を聞きつけた日本美術史家たちが、ロサンゼルス近郊の高級住宅街コロナ・デル・マーのプライス邸を訪れるようになる。こうして、ほぼ無名の画師であった伊藤若冲は、ジョーさんのおかげで再評価をされ、徐々に日本人の目に触れるようになった。 そして、2006年、東京国立博物館における初の外国人のコレクション展として「若冲と江戸絵画」展が行われて以来、日本で空前の若冲ブームが起こっている。