記憶の向こう側をくすぐる中毒性のある作品 トレーディングミュージアムで展示中のミナミリョウヘイが語る創造の原点
WWD:ちなみに今回の円柱の構成からいうと、木彫の作品を置くことも結果的に作ってからのアイデアだったんですか?
ミナミ:これは「カームアンドパンク」の展示からスタートしたシリーズで、新作を作りたいとは思っていました。これまでは色が入った作品が多かったんですが、今年はほとんどモノクロのドローイングの作品を描いていたのでそのイメージが漠然と頭に浮かんではいました。今回の展示がタイムリーだったと思いますね。
WWD:ブランドの定番でもある黒が偶然のタイミングで合致したということですね。
ミナミ:そう。タイムリー過ぎて驚きました。今、自分ではモノクロがアツいんです。
WWD:川久保(玲)さんとの会話で印象に残っていることは何ですか?
ミナミ:何より打ち合わせで「好きにやってください」という言葉をいただいたことですね。じっくりお話ししてみたいです。
WWD:創作とクライアントワークの違いがあるとすればどういうポイントでしょうか?
ミナミ:今回、自由にさせていただいたので楽しかったです。昔、あるバンドのジャケットのデザインを作った時もボーカルの方が「完全自由に作ってほしい」と言ってくれました。そういう意味でのクライアントワークはあるかもしれませんが、自分の作品と一緒みたいなので。今回の展示でも、入り口の円柱を使う時に間の壁が干渉したのですが、ブランドが自由に作れるようパーテーションを施工してくれたんです。それで入り口から右側に続く作品の流れを作ることができました。初めは、2つの円柱で作り始めたんですけど、作品のフローができなかったんです。
WWD:世界観に没入するためにフローは重要なんですね。
ミナミ:そうです。僕はラップもやるんですけど、フローじゃないですか。僕はパロールって呼んでいます。誰もが思考するときに絶対に縛られてしまう。僕らだったら日本語ですけど、住んでいる環境でつく話す癖がありますよね。声の高さ、スピードとか。ソシュールのスティルという概念で、ロラン・バルトとか後の構造主義者の人たちはパロールと呼びました。パロールは言語学で制度化された体系としての言語で、日常のフロウ。何かしら環境などの影響から出来上がっているわけなんですよね。そもそも自分の中からしか生まれない、変な結晶みたいなものを僕らは芸術と呼んでいると思うんです。その芸術の中にもさらに結晶があって、それがパロールだと思っています。僕はそれだけをピックアップして、パロールだけでやっている感覚があります。ちなみに昨年の個展のタイトルも「PaRoooLE」でしたけど、今回の展示も含めてようやく言葉の輪郭が浮かんできたと感じました。