池上彰×佐藤優「トランプ政権下の日米関係」対談 米国「関税10%」はったりか本気か
米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利を収めた。日米関係、経済のゆくえはどうなるのか。池上彰氏と佐藤優氏が語り合った。AERA 2024年11月25日号からテーマごとに抜粋してお届けする。 【図表を見る】第1次トランプ政権時の対日関係はどうだった? * * * 【日米関係、経済のゆくえ】 池上彰:トランプ氏は、世界中からの輸入品に関税をかけると言っていますよね。でもそれを全部真に受けちゃいけないんですよ。かなりブラフ(はったり)で、すべて取引なので、最初にふっかけておいて、相手をびっくりさせて、じゃあ具体的に話を詰めようかっていうところで、関税を高くかけると言いながら、それ以外のところで利益を得ようという、こういうことをこれからやっていくんだっていうことですよね。だから、日本の製品に10%かけるぞと、こう言いながら、実際にはそれ以外のところで、例えば関税は10%にしないけど、その代わりに在日米軍駐留経費負担をもっと上げろとか、もっとアメリカ製の武器を買えとか、そういう交渉というか取引をしてくるという可能性もあるだろうと思うわけです。 ■乱暴だけど理屈は通る 佐藤優:私は関税に関しては、自動車はかけられると思っています。客観的に見てみれば、日本がやってることは安倍政権からの為替ダンピングです。裏返すと、為替ダンピングしているから、円安で移民も入ってこないわけです。こんな国で働いていても仕送りできませんから。この状況の中でトヨタが空前の利益をベースで上げているのは、第三者的に見てもおかしい。為替ダンピングを国としてやっているような国の製品に対して一定の関税をかけるのは当たり前、そうじゃないんだったらアメリカに出てきて生産しろ。トランプ氏って乱暴なんだけども、客観的に見てみると理屈は通るんです。
それから、日米同盟に関してですが、同盟関係を結んだ頃よりもアメリカが弱くなって日本が相対的に強くなっているから、その閾値(いきち)は狭まりつつある。これを、ヤクザで考えると、総本部が弱っているわけだから、直参(第1次団体)や本部への上納金や当番などが増えるのは当たり前の話です。この全体のバランスをどう見ていくかっていうことだと思うんですね。弱っているアメリカの中で、相対的に日本の貢献を求められている。他方、二国間関係の枠内だったら、日本政府の働きかけによって主権の閾値を広げることができるわけです。日本は、このゲームをトランプ氏と繰り広げないといけないのです。 それから、今後非常に気を付けないといけないのは、日英伊の次期戦闘機の共同開発でしょう。トランプ氏は知らないと思うから、これでアメリカの雇用がどれぐらい増えるんだって聞いてくると思う。日英伊の共同開発ではアメリカの雇用はゼロだから、それならアメリカの戦闘機を買ってということになってきて、全部ぶっ飛ぶかもしれない。アメリカ人が額に汗して、それで報いがあるような雇用環境を作るっていうことが彼の目指すところです。右から左に儲けるのが好きなのではなく、額に汗して勤労勤勉っていうのが好きなんですよ。 池上:本人は額に汗したことはないんだけど、額に汗して働く労働者のことは常に考えるということですね。 佐藤:額に冷や汗、全身に冷や汗をかくようなことはたくさんやっていますけどね(笑)。それと、沖縄とトランプ政権の様子も注意してみてほしいですね。沖縄の琉球新報では、トランプ氏当選で、県は共和党系人脈をてこに、共和党との関係強化を図ると報道しています。アメリカには、日本語をしゃべらずに琉球語をしゃべる沖縄系アメリカ人がたくさんいます。そうすると、アメリカと沖縄がダイレクトで交渉してまとまる可能性もある。ですから、沖縄をめぐっては、沖縄系アメリカ人の動きにも注目する必要があると思います。 (構成/編集部・三島恵美子) ※AERA 2024年11月25日号より抜粋
三島恵美子