ECBのラガルド総裁の記者会見-Changing commitment
金融政策の運営
ECBは前回に続いて25bpの利下げを決定したが、声明文には変更が加えられた。 第一に、従来の「インフレ率が中期的な2%目標にタイムリーに回帰(return)するよう図る」との表現が、「インフレ率が中期的な2%目標に持続的に安定(stabilize)するよう図る」に変わった。第二に、「上記の目標の達成に必要な限り、政策金利を十分に引締め的な水準に維持する」との文章は削除された。 ラガルド総裁は、金融政策を判断する上での3つの要素-インフレ見通し、基調インフレの動向、金融政策の波及効果-の評価に照らして、25bpの利下げを決定したことを説明した。その上で、今後も毎回の会合でこれらの3つの要素をデータによって評価しつつ政策決定を行う方針を確認した。 質疑応答では、今回会合での議論の内容が取り上げられた。 ラガルド総裁は、①執行部見通しが6回連続で2025年中のインフレ目標達成を予想している、②賃金や企業収益、生産性を踏まえると基調的インフレの減速が見込める、③サービス価格の上昇率はなお高い、が焦点であったと説明した。また、25bpの利下げは全会一致だが、議論の途上では50bp利下げの意見もあったと述べた。 また、複数の記者が声明文の変更の趣旨を取り上げた。まず、 ラガルド総裁は、ECBが累積で100bpの利下げを行ったことやインフレ率が目標に近づいていること、物価の先行きには上下双方のリスクがあることなど、金融引締め当時とは状況が大きく異なるだけに、「政策金利を十分に引締め的な水準に維持する」との表現を削除するのは自然と説明した。 その上で、ラガルド総裁は、次回(1月)会合での50bpへの利下げ幅拡大を示唆したものではないかという一部の記者の見方は否定し、毎回の会合で上記3つの要素を評価して政策決定を行う方針を確認した。ただし、米国の新政権による経済政策や域内主要国の政治情勢による影響は、今後数か月単位で不透明性が残るとの懸念も示した。 さらに、一部の記者が、理事会メンバーが中立金利の水準について異なる見方を有している点を取り上げたのに対しては、 ラガルド総裁は、以前の想定より上昇した可能性はあるが、実際により接近したら理事会で議論するとの考えを示した。 なお、ECBがコロナ期に実施したPEPPに伴う保有債券の再投資は今月で終了する。この点について、一部の記者は、今月初のフランス国債利回りの不安定化を念頭に、現時点で再投資を終了することの影響やTPIの発動の可能性を質した。 ラガルド総裁は、PEPPがECBに対する出資比率(capital key)の制約なく運営できたことは、政策の柔軟性の点で有意義であったと評価した一方、今回の会合ではTPIに関しては議論していないと説明した。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也