【キムタクドラマBelieveを土木視点で見る】実際の“龍神大橋”はどこにある?なぜ落ちた?
吉川:橋のアーチ部分は英虞湾の真珠をイメージして、少しピンクがかった白色です。 ――本当に美しい橋ですね。確かに、アーチ部分と桁の間にケーブルが斜めに張られているニールセン形式ですね。 ミニ知識 志摩大橋の2本のアーチ間は、上にいくほど狭まっている。まるでバスケットの取っ手のように見えることから、バスケットハンドル形式と呼ばれている。空の上からぐいっとつかむイメージだ。 ■ なぜ橋の設計が変更されたのか ――今回のドラマの重要なポイントの一つが、狩山部長が会社の重役たちを相手に提案した龍神大橋の設計変更のシーンです。ただ、この会議では専門用語が飛び交い、一般の視聴者にはわかりにくい部分がありました。狩山部長の提案は具体的にどういったものだったのでしょう? 吉川:彼は「コストを抑えつつ、ケーブルの一部を鋼材に置き換えた形で設計を変更します」と訴えています。橋の上部構造を指す「橋体(きょうたい)」の挙動に関しては「3次元解析済み」というセリフからも、設計変更による構造上の問題はないという強い自負を感じますね。 吊ケーブルのうち、アーチの中央部分にあるものをV字型の鋼材に変更することで、コストや工期がどう変わるのかまではわかりませんが、少なくとも再開発地域のシンボルになると彼は考えているようです。 会議に向かう直前に彼が言った「毎日現場で拾い集める夢で、橋はできあがっていく」ということからも、“夢”の象徴としての龍神大橋をより高みに上げたかったのかもしれません。
――妻も太鼓判を押すほど緻密な性格の彼が設計した橋が、あのような形で崩落してしまいました。ドラマ内では正しい部材が使われていなかったという事実も明らかになったようですが。 吉川:ドラマ後半で、狩山と磯田社長(小日向文世)が橋崩落の原因を話し合うシーンがありましたね。警察は橋の設計変更が原因と考えているが、狩山は「上部工ケーブルの変更発注書」をスクリーンに映し出し、強度が元の半分以下の海外製ケーブルが使われたことが原因であると主張しています。確かにそれが原因の可能性があるでしょう。 今回の落橋シーンでは、差し替えられたと思われるケーブルが定着から外れ、桁の自重を支えきれなくなっています。最終的には桁の中央部(曲げモーメント最大箇所)で折れ曲がって橋は崩れ落ちてしまっています。 ただ現実的には、設計ミスや手抜き工事(仕様を満たさない材料使用)があったとしてもただちに崩壊することはなく、弱いところから少しずつ壊れ、やがて落橋に至るという感じでしょうか。 注目ポイント 画面に映し出された変更発注書には、「φ7×73、length7991」といった文字が並んでいた。これは、問題となった吊ケーブルが「直径7mmの鋼材が73本で束になっていて、長さが7991mm」という意味。 あと、細かいことですが、狩山部長のヘルメットの紐が外れていたのが気になりました。実際の現場ではあり得ないことなので。 ――そこにはまったく気が付きませんでした! 確かにストライキをしている坂東組に工事再開の交渉に行くときは紐が外れていました。その後、すぐにヘルメットを脱ぐので演出の都合だったのかもしれないですね。実際の橋で安全ベルトを着けて作業するシーンではしっかり紐は止められていました。