水と空気からパンと電気を作る? アンモニアの新合成法は時代を変えるか
ある日本人研究者の画期的な研究成果が、4月24日の科学誌「Nature」に発表されました。 【図】「水素社会」実現のカギはアンモニア技術が握る? この研究とは、東京大学・西林仁昭(にしばやし・よしあき)教授のグループが発見した「水と窒素ガスからアンモニアを合成する」というものです(写真1)。
実は西林教授は2017年にも、共同研究によって、アンモニア合成における新しい研究成果を発表しています。今回は、そのバージョンアップです。しかも、ちょっとしたバージョンアップではなく、時代の転換点ともなり得る大きな躍進です。 一見、私たちの生活とは縁遠そうなアンモニアとその研究が、実はどのくらい重要なのかに触れつつ、西林教授グループによる新しい研究成果を紹介します。
人類の「食」を支えるアンモニア
私たちの体の半分は「人工的に作られた」物質からできています。それはどういうことでしょうか。 私たち自身の体や私たちが食べる物は、食物連鎖の中でピラミッドの一番下に位置する植物に支えられています。その植物は空気や土の中の栄養素と水などで生きているのですが、全人類の食べ物を支えるほど植物が成長するためには自然の栄養素だけでは足りません。人工的な肥料を使わなければ、私たち人類すべてに必要な量の食べ物を確保することはできないのです。 その肥料の原料となるアンモニアを大量生成することを可能にしたのが、約100年前に発明された「ハーバー・ボッシュ法」です。この方法によって、空気中の窒素ガス(N2)と、水素ガス(H2)を原料にアンモニア(NH3)を合成できるようになりました。そのアンモニアが化学肥料となって、私たち人類の食を支えているのです。 現在の穀物や野菜、飼料用の作物に含まれる栄養素の半分は、アンモニアに頼っているため、私たちの体の半分はハーバー・ボッシュ法で人工的に作られたアンモニアによってできているといえるでしょう。そのため、このアンモニア合成法は「空気と水と石炭からパンを作る」方法ともいわれました。