子どもの性被害「加害者なくす」根本対策が必要な訳 世界から30年遅れ「日本版DBS」では性犯罪を防げない
加害者をなくす対策こそ必要
では、子どもへの性暴力を防ぐために何が必要なのか。 それは加害者治療と社会復帰支援だと福井氏は言う。福井氏は「被害者を生まないためには加害者をなくすしかない」という考えの下、2011年にNPO法人性障害専門医療センター(SOMEC)を設立。性嗜好障害などの治療、犯罪者の精神鑑定も行っている。 「性犯罪者の治療は大きく分けて2つあります。1つは認知行動療法です。人の考えや感情に働きかけて行動を変えていくものです。加害に至るまでの段階で歯止めをかける、例えば子どもの集まる時間帯に外出しない、などと自分で行動をコントロールできるようにするもので、これは治療において必須です。 そして、認知行動療法で改善が見られない場合の補助的な選択肢として薬物療法があります。男性ホルモンを抑制し性的欲求を低下させるホルモン療法が代表的なものです。認知行動療法を受けている本人から、再犯しそうだと申し出があった際に、一時的にホルモン療法を受けるといった場合などに用います。子どもに対する性的嗜好は変化しにくいので、嗜好はあっても行動に移さないことを第一の目標に、治療を進めています」 福井氏が加害者治療に力を注ぐことになったのは、子どもの頃の性的虐待による解離性同一性障害(多重人格)の患者を多く受け持った経験からだという。 性暴力の被害者である子どもにいくら治療を施しても回復は難しかった。性暴力が起きないようにするには、加害者側への働きかけ、それも注意するといったレベルではなく、治療や支援のシステムを包括的に整備することが必要との考えに至ったという。 SOMECのような性障害を対象とした治療・支援の専門機関は国内にはまだ少なく、加害者が子どもに接しない仕事に就こうとしても職業訓練の機会や、仕事のあっせんも受けられないのが現状だ。 ホルモン療法にしても保険適用にはならない。加害者の治療や更生、社会復帰支援の視点のある包括的な加害者対策があってこそ、性犯罪の抑止につながるという考えだ。