松山猛が語る加藤和彦、ザ・フォーク・クルセダーズ、サディスティック・ミカ・バンド
音楽に忙しかったんだろうな、彼の人生は
カフェ・ル・モンドのメニュー / チッチとサリー 田家:1970年3月発売になった「カフェ・ル・モンドのメニュー」。名義がチッチとサリー。加藤和彦さんとサイドボーカルは小野和子さんかな。この曲は思い出されることはありますか? 松山:やっぱりパリに対する憧れとかがすごくあって、フランス好きだったもので。まだ1970年は行ってないですね。翌年行ってますね。 田家:カフェ・ル・モンドというのは松山さんのイメージにおありになって。 松山:そうですね。オーブル街と一緒ですね。たぶんオーブル街にあるカフェなんです(笑)。 田家:映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』は音楽家の面だけではなくて、料理人の方、有名シェフが登場していたので。 松山:三國くんとかね。 田家:そういう面までもスポットを当てているんだと思いましたけど、松山さんがお付き合いされている中で料理は大きい要素なんですか? 松山:彼は大学は京都の大学に入って、フォークルをやりながら将来について語ることがあって、料理人になろうかなとか、テレビ局に勤めようかなとか、そういうふうに言ってましたね。料理は好きでした。 田家:そういう意味ではいろいろ語っていないところとか、もっともっと語っていきたいことだとか、語り残したいことがたくさんおありになるでしょう? 松山:でも、音楽に忙しかったんだろうな、彼の人生は。次々と新しいことにチャレンジしてね。でも、あるときからレコードじゃなくなった。CDでもなくなった。配信の世界になっちゃった。手応えがなくなっちゃった。いろいろやりましたよ、フォークルを新規結成したり、いろいろやったけど掴みどころがなくなっちゃってきたところがあったのかなと思って。安井さんと仕事をしだしてから、その前のミカ・バンドの3枚目のアルバムはノータッチなんですよ。仕事が忙しくなっちゃって、雑誌の仕事。僕的には『黒船』の達成感があったので、しばらくあれを超えるものは書けないなみたいな。あとはもう好きにしてって冷たい言い方かもしれないけど、彼は彼のやり方でいきたいだろうし。僕は身を引いたんだけど、そこからちょっと時折は会っていたけど、一緒にやりましょうみたいなことはなくなっちゃった時期が長くてね。フォークルの新結成ぐらいから、またやり出したんだけど、あのへんもやっぱりおもしろがりながらもがいていたのかなって気はします。 田家:亡くなって15年。この15年ということで、もし加藤さんに「もしも,もしも,もしも」でお会いするとしたら、どんな話をされたいですか? 松山:岡倉天心の世界、もう1回やろうかって。でも難しいだろうな(笑)。 田家:わかりました! 松山さんお元気で、これからまた旅に行かれる。 松山:旅もしますし、僕も今新しい詞をいっぱい書いているんですよ。京都時代の仲間だとか、そういう人に書いているから、それこそちゃんと市販するようなCDになるわけでもなく。でも、YouTubeでは聴けますよ。 田家:そういう話をあらためてまたここで聞かせていただける日が来るとうれしいなと思いながら。 松山:はい、よろしくお願いします。 田家:ありがとうございました。 左から、田家秀樹、松山猛 静かな伝説 / 竹内まりや 流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。 竹内まりやさんのデビューにも加藤和彦さんが深く関わっていて、デビュー曲の作曲をした。これは先月の周年アーティストのデビュー・アルバムの中でも触れましたが、松山さんが加藤はこんなに人脈が広い人だったんだとあらためて思ったという話がありましたが、映画『トノバン 音楽家 加藤和彦のその時代』は本当にいろいろな方たちが加藤さんのことを語っています。北山修さん、松山猛さん、朝妻一郎さん、新田和長さん、つのだ☆ひろさん、小原礼さん、今井裕さん、高中正義さん、クリス・トーマス、泉谷しげるさん、坂崎幸之助さん、重実博、コシノジュンコさん、三國清三さん。そしてアーカイブで高橋幸宏さん、それから吉田拓郎さん、松任谷正隆さん、坂本龍一さんの声も流れます。音楽を中心にして時代を語ったり、人を語ったりという意味では加藤さんは語りがいのあるとても大きい方なので、あらためていろいろな発見がある、そんな映画だと思います。 加藤さんが亡くなって15年なのですが、この番組が始まったのが2014年で、きっかけが2つありました。1つは2013年の年末に大瀧詠一さんが亡くなったこと。もう1つは2013年に『永遠のザ・フォーク・クルセダーズ 若い加藤和彦のように』という1時間番組をFM COCOLOが14回作らせてくれたんです。そのときに北山さんとか松山さんとか、いろいろな8人の方の話を聞いて、番組が民間放送連盟賞というのをもらった。本人が登場しなくても、ここまでの番組を作れるんだという実績があったので、この番組が始められたという流れがあります。そこでは訊けなかったこと、もし時間があったらこういう人たちの話も訊きたかったなという方たちが映画の中ではたくさん登場されています。 そしてFM COCOLOで7月10日にFM COCOLO制作の加藤さんのトリビュート・コンサートがあるんです。ロームシアター京都で行われます。音楽監督が高田漣さん。みゆきさんのトリビュート・コンサート『歌縁』の監督さんですね。その話も来週、もうちょっと詳しくできると思います。来週もお楽しみにしてください。 <INFORMATION> 田家秀樹 1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。 「J-POP LEGEND CAFE」 月 21:00-22:00 音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
Rolling Stone Japan 編集部