「自分のオシッコの臭いを嗅いで驚いて…」スタッフもみんなメロメロになった“かわいすぎる競走馬”の驚きのエピソード
ラッキーハンターは“犬っぽい馬”
私は、なぜラッキーハンターに惹きつけられたのか。林さんから現役時代のエピソードを聞きながら、ひとつの疑問がスルスルと解けていくのを感じていた。ラッキーハンターの行動や人に対する反応は、はっきりいってかなり犬っぽいのだ。 あらゆる動物のなかで、犬ほど積極的に人間とコミュニケーションを取ろうとする生き物はおそらくいないだろう。生まれながらにして、人が指さすものに注目する能力を持つのは、人間と犬だけといわれている。また最近の研究結果では、信頼関係が築けている人と犬は、見つめあうだけで脳内でオキシトシンというホルモンが分泌され、お互いの絆が深まることもわかっている。 人間への好奇心が旺盛で「遊ぼうよ」「それ、なーに?」と常に楽しそうにアピールし続けることは、もっとも犬らしい犬の基本行動だが、これは新馬時代のラッキーハンターのエピソードとピッタリ重なっている。犬っぽい猫や、猫っぽい犬がいるように、おそらくラッキーハンターは犬っぽい気質が強い馬で、そんなところが馬の知識ゼロの私にも親しみやすかったのかもしれない。林さんによるラッキーハンターの逸話は、聞けば聞くほど犬を連想させるものだった。しかも並の犬ではなく、突出して大らかなタイプだ。
ラッキーハンターの“人を笑わせる”意外な才能
初めて見るものに動じないラッキーハンターは、ゲート試験もスムーズに合格した。これは競走馬デビューのためには必須の試験だが、警戒心が強すぎるなどの理由で何度トライしてもゲートインできない馬もいるというから、担当者の喜びと安堵感はひときわ大きい。肝が据わっているというか、何やら大物感さえ漂っているような気がするが、「どちらかというと、天然のマイペースタイプです」と分析する林さんは、ラッキーハンターは人を笑わせる才能にも長けていると言う。 レースの出場が決まった競走馬は、前の週から“追い切り”と呼ばれる本番さながらのタイムを目指したトレーニングをする。普段よりも格段にハードな調教なので、汗や土をきれいに洗い流してあげた後は、特に負担がかかる膝から蹄の上にかけてアイシング用の白い粘土を塗る。これは筋肉の疲労回復に効果があるもので、競馬界では定番のアフターケアだ。 林さんがラッキーハンターの異変に気づいたのは、ほかの用事をすませて再び様子を見に行ったときだった。厩舎の通路の先に、馬房から顔を半分覗かせてこちらに視線を送ってくる栗毛の若馬が見えた。しかし、その姿はいつもとまったく違っていた。 ラッキーの馬房に、ピエロがいる……! 粘土を塗った前肢で顔を搔いたのだろうか、まるでピエロのメイクを施したように、ラッキーハンターの左目のまわりが白くペイントされていた。笑いを堪えきれないまま林さんがスマートフォンを構えると、ラッキーハンターは嬉しそうにカメラ目線になったそうだ。 「偶然とは思えないキレイな仕上がりで、大笑いしました。ラッキーには生まれながらにして、人を笑わせる才能があるんです」
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