「自分のオシッコの臭いを嗅いで驚いて…」スタッフもみんなメロメロになった“かわいすぎる競走馬”の驚きのエピソード
一番人気のおやつ
「ラッキーに会うのは久しぶりなので、楽しみにしていました」 林さんは、見るからに新鮮そうな袋入りのニンジンを手にしていた。鼻先にぶら下げるという表現など、馬とニンジンの組み合わせはステレオタイプなものだと思っていたが、あながちそうでもないらしい。 「馬って、本当にニンジンが好きなんですね」 「ニンジンが嫌いな子はいません」 林さんは、一番人気のおやつだという。早速、ラッキーハンターに食べさせてあげたいところだけれど、午前中はハンディキャップのある子どもたちのための支援プログラムで、セラピーホースとして働いている。セカンドキャリアでも大活躍しているのだ。競走馬とセラピーホース、ふたつの時代を知る林さんの目に、ラッキーハンターはどのように映っていたのだろう。ニンジンタイムは後のお楽しみにとっておいて、ファーストキャリアについて訊いてみることにした。
めっちゃ可愛い新馬
林さんがラッキーハンターと出会ったのは2013年の夏、就職して3年目のことだ。函館競馬場で開催されるレースに備えて、前乗りして出走馬を調教する役目を初めて任された。 「担当する馬は通常2頭ですが、1頭を栗東から連れて行き、もう1頭が新馬として入厩したばかりのラッキーハンターでした。最初からノホホンとしていて、ちょっと有り得ないくらい大らかで、とにかくかわいい馬でした」 現在とほぼ変わらない印象だが、ラッキーハンターは競走馬としてかなり珍しいタイプだったようだ。なぜなら競馬界で、新馬はもっとも危険な存在だからだ。生産牧場で生まれたサラブレッドの子馬が、競走馬への道を歩むために母親から引き離されるのは生後半年くらいだという。同じくらいの月齢の子馬が集まる育成牧場は、競走馬候補たちの英才教育学校のようなもので、そこで体力をつけながら基礎トレーニングを重ね、2歳になる頃にデビュー目指してトレセンの厩舎に入る――というのが競走馬たちの歩む基本的なルートだ。 林さんによると、それまで育成牧場で暮らしていた新馬にとって、トレセンはとても怖いところだ。 「勝負の世界に直結しているし、きついトレーニングを重ねるため人も馬もピリピリしています。新馬にとっては、ただでさえ初めての場所なので不安感も恐怖心も大きくなっているはずです」 馬は、怖ければ暴れる。そして新馬は、たいてい大暴れする。体重400キロを超えている大動物が相手なので、少しでも対応を間違えたら大怪我は免れない。また馬たちはまぎれもなくオーナーからの預かりもので、生命と財産の両方を守るためにも、厩舎の仕事は細心の注意が必要なのだ。 馬たちにとって最初の難関は、鞍を付けて人を乗せることだ。 我々が目にする馬というのは当然のように鞍を付けて走っているので、つい「馬とはそういうもの」と考えてしまいそうになるが、そもそも動物にとって背中に何かを付けたり、まして人を乗せるなど恐怖でしかない。それでも最終的には受け入れてくれるのだから、馬というのはなんと稀有な動物なのだろう。鞍を付けたり、人が乗るトレーニングは、育成牧場時代からやってはいる。だが仲間と離れて新しい環境に来たばかりの馬は、緊張感や警戒心が頂点に達しているといっても大袈裟ではない。
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