宇宙飛行士は火星上では安全に居られない!? 英大学研究グループが課題の解決方法を提案
アメリカ航空宇宙局(NASA)の副長官(当時)であったJames Reuter氏は、2023年5月にワシントンで開催された「Humans to Mars Summit」の席上、2040年までに火星への有人飛行を実現することがNASAにとって重要な目標であると発言しました。言葉通りならあと16年以内に実現されることになる有人火星探査ですが、火星行きの有人宇宙船の開発、長期間のミッションで宇宙飛行士が直面する心理的・生理的・物理的影響の克服など、多くの難題が予想される中、人類が目的地である火星で安全に居られるためにも解決すべき課題が残されているようです。 今日の宇宙画像 こうした課題のひとつに取り組んだイギリスのブリストル大学の学生Benjamin M. Griggs氏とLucinda Berthoud教授を含む研究グループは、火星表面に堆積する物質「レゴリス」が宇宙服に付着することを防ぐシステムを提案しました。
宇宙飛行士にとって有害な火星環境
レゴリスは月や火星などの天体表面を層状に覆う砂状の物質のことで、たとえば月の高地では5~10メートルの厚さのレゴリスが堆積していることが確認されています。特に火星のレゴリスの粒子は、宇宙線の被曝だけでなく「ダストデビル」と呼ばれる火星特有の渦や嵐が引き起こす静電気放電により静電気を帯びています。そのため、ファンデルワールス力で宇宙服に付着するようです。また、火星のレゴリスは発がん性物質のクロムを含んでいることが判明しており、呼吸系疾患のリスクを高める可能性があるといいます。実際、NASAが2007年に公表した報告書によると、月のレゴリスが人体に悪影響を及ぼす可能性が報告されています。 NASAのアルテミス計画では、レゴリス粒子が宇宙服などに付着しないようにするための様々な手法が提案されています。その中には宇宙服に対するコーティング技術や電子ビームを用いた掃除などが含まれますが、火星のレゴリスは月よりも有害であるため、宇宙飛行士の居住区域に入り込まないよう宇宙服からレゴリスを除去する必要があるといいます。