宇宙飛行士は火星上では安全に居られない!? 英大学研究グループが課題の解決方法を提案
電気の力を借りてレゴリスを除去
研究グループが提案したレゴリス除去システムは、「誘電泳動」という現象を応用しています。粒子が電場によって動く現象としては「電気泳動」が知られていますが、この現象は帯電している粒子に外部電場を与えると一方の極に移動するというものです。これに対して誘電泳動とは、均一でない電場の下で帯電していない粒子(誘電体)が分極し、電場の強い方向へと動く現象を指します。 このレゴリス除去システムは静電気除去デバイスと高電圧波形発生器から構成されており、静電気除去デバイス内の電極アレイに高電圧の矩形波を印加することによって、非一様な電場を発生させています。この電場のおかげで、静電気力と誘電泳動の組み合わせで電荷を帯びたレゴリス粒子と電荷を帯びていないレゴリス粒子の双方が除去されるといいます。 研究グループはレゴリス除去システムの性能を定量化するため、矩形波の周波数や振幅、電極とレゴリス層の間の距離、宇宙服の材質などの変数を詳細に調査しました。静電気除去デバイスにレゴリス粒子を付着させて実験を行なった結果、約98%のレゴリス粒子を静電気除去デバイスから分離できることが判明しました。
その一方で、レゴリス粒子と静電気除去デバイスとのあいだに宇宙服の素材であるノーメックスやテフロン、ケブラーなどを挟んで同様の実験を行なったところ、性能が著しく低下しました。レゴリス粒子とデバイス間の距離が増加したことが原因だと考えられるため、レゴリス除去システムを宇宙服の素材に直接織り込むなど、統合する必要があると結論付けています。 研究グループによると、提案手法は太陽光パネルからレゴリス粒子を除去するなど、多岐にわたる応用が可能であり、アポロ計画で用いられていた機械的な除去方法に取って代わる可能性があるようです。また、火星ミッションにおいても有用な手段となるよう、レゴリス除去システムを洗練させる必要があるとしています。 Source Universe Today - Electrodes in Spacesuits Could Protect Astronauts from Harmful Dust on Mars Universe Today - NASA is Testing a Coating to Help Astronauts and Their Equipment Shed Dangerous Lunar Dust doi:10.1016/j.actaastro.2024.02.016 - Development of electrostatic removal system for application in dust removal from Martian spacesuits Space.com - Sending astronauts to Mars by 2040 is 'an audacious goal' but NASA is trying anyway NASA - Lunar Regolith NASA - Topical: Electrostatic dust removal from spacesuits NASA - The Effects of Lunar Dust on EVA Systems During the Apollo Missions NASA - Electrodynamic Dust Shield for Space Applications
Misato Kadono