“新感覚の婚活小説”はなぜ生まれた?「結婚しなくてもいいと気づく話は古い」ベストセラー作家2人が語る「結婚の今」
ヒットさせるつもりはあった
宮島 『元彼の遺言状』が出た途端、あんなにヒットすると思わなかったからでしょう。だからうかつなことを言ってしまったんじゃないですか? 新川 でもヒットさせるつもりはあったんです。先輩作家から、デビュー作がヒットするかどうかでその後の道が変わると聞いていたこともあり、これで売れなければ出版界終わってる、みたいなところまで頑張って宣伝活動したんです。そこまでやってデビューを迎えたので、売れた時は「よし」という気持ちでした。 宮島 私は全然売れる気はしなかった(笑)。新潮社のプロモーション部が目をつけてくれてからですね、売れるのかなと思ったのは。
リズム派の作家と、ノンリズム派の作家
新川 書いた後にかなり直す方ですか。 宮島 鉛筆(ゲラに編集者や校閲の意見を書き込む)を入れてもらって、そこから結構改稿します。でも指摘されたことを加筆すると、その部分が浮くんです。 新川 わかります。指摘された一文を入れるためには、前の2段落も直すはめになりません? 今日はその話をしたかったんです。私はリズム派の作家と、ノンリズム派の作家がいると思っているんです。ただリズム派作家はリズムがあってもそのリズムがいいとは限らないし、リズム派ではない作家のリズムが悪いわけではない。 リズム派で、リズムのいい作家を見つけると私は狂喜乱舞してしまう。宮島さんがまさにそれ。 宮島 ああ、うれしい。そうなんですよ。本当にそれって自分の天性のものだと思っているんです。訓練せず自然とできるので。 新川 リズムがいい人って、読者の視線の動きの速さを何となくわかって書いていると思うんです。説明するとすごく難しいことをしているように聞こえますが、身体感覚としてやっていることなんです。ノンリズム派の人は、読書家の場合が多いですね。
婚活パーティーの運営が面白いんじゃないか
――今回、宮島さんは『婚活マエストロ』で結婚の入口をお書きになりました。なぜ結婚をテーマにしたんでしょうか。 宮島 『婚活マエストロ』に関しては、完全に編集者のオーダーです。担当編集者が婚活パーティーを主催する会社でバイトしていた時の話をしてくれたんですが、それが面白かった。そこでパーティーにフォーカスを当てました。婚活というより、婚活パーティーの話なんです。だから、「新感覚の婚活小説」と言っています。 新川 婚活の話で40歳の男が主人公だと聞いたから、その男が婚活をする話だと思うじゃないですか。ところがそうではなく、婚活パーティーの司会をするというから、そんな切り口思いつかないよって。 宮島 担当編集者がバイトしていた会社は、婚活パーティーで東京を元気にしようとしていたらしいです(笑)。小説に出てくる会社のように、ホームページは古いし、パーティーでは、キーボードで効果音を弾くところまで司会者一人が何もかもやる。それを聞いて、これは運営視点が面白いと思いました。 ――秀逸なのは、健人が婚活マエストロの鏡原さんとサイゼリヤに行って、普段は食べないデザートをオーダーする場面。カップルになる意味の描写が最高でした。 宮島 書いて自分でもびっくりしました。ストーリーもまさかこういう展開になるとは、最後まで書かないとわからなかった。 新川 リズム派の人はそうなんですよ。私もそれです。このキャラはこうだろうなって、書いているうちに自然にわかるんです。 宮島 ライブのような感覚(笑)。1行書いて、次の1行はこれだみたいな感じで書いています。