“新感覚の婚活小説”はなぜ生まれた?「結婚しなくてもいいと気づく話は古い」ベストセラー作家2人が語る「結婚の今」
離婚弁護士を登場させればいい
――一方で、新川さんは離婚事件を専門に扱う弁護士の松岡紬が主人公の『縁切り上等!』で、結婚の出口を書かれたのはなぜですか。 新川 元々は恋愛小説を書きたかったんですね。でも、新潮社さんにそう言ったら、流されて(笑)。「リーガル(法律もの)ですかね」と言われ、じゃあリーガルで恋愛が絡むとなれば、離婚弁護士を登場させればいいなと。
宮島 すごく面白かったです。元弁護士さんだからこういう話を書けてうらやましいと正直思ったんですけど、よくよく読んだら別に法律の要素がなくても書けるなと気づきました。 新川 そうなんです。法律要素を要求されたので、まぶしました(笑)。だから全然書けますよ。 勝手な提案ですが、宮島さんに不倫ものを書いてほしいです。宮島さんにしかできないバランスの不倫ものが生まれると思う。『婚活マエストロ』にしても、婚活というテーマはもっと不条理に、嫌な感じで書けるのに、そうはしないバランス感覚がすごい。
「結婚しなくてもいい」と気づく話は古い
宮島 婚活小説でいうと、私は『婚活1000本ノック』(南綾子著)が大好きで、これと同じアプローチだったら絶対にかなわないと思ったんです。だから違う方からいこうと意識しました。 新川 宮島さんの作品はよく「キャラ立ちしている」と言われると思うんですが、キャラというよりむしろ世界観や筆のタッチが重要なんじゃないかと思うんです。ちょっと変わったキャラクターだったとしても、変なパースをつけず、すっと普通に書くから意地悪にならない。リアルな人間は必ず歪なところがあるから、それを普通に書けば必ずちょっと変な人になったり、キャラ立ちしたりするはずだと私はみております。 宮島 作者がわかっていないことを。すごい(拍手)。 ――『成瀬~』の主人公も、『縁切り上等!』の紬先生も、ある意味変な人です。主人公の造形はどう意識されているんですか。 新川 実は『縁切り上等!』を書くのはしんどかったんです。なぜなら、結婚はしてもしなくてもいいよね、という結論にしなければいけないということが見えていて、そこに向かって書く必要があったので。 ただ、すごく結婚したい子が結婚しなくてもいいと気づく話だと、説教くさくて古い感じがしてしまうなと思いました。もっと自然体で、別に結婚したくないけどな、ぐらいの子をポンと出す方が現代的だと。そういうさまざまな計算のもと、作っています。 宮島 成瀬に関しては、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉なんです。「こち亀」の両さんみたいに周りを巻き込み、破天荒で……みたいな感じですね。書いているうちにこうなりました。なぜ成瀬がこんなに人気なのか、ちょっとわかりません(笑)。 写真=鈴木七絵/文藝春秋 実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話が…地方出身のベストセラー作家2人が語る「地方」と「結婚」 へ続く
内藤 麻里子/週刊文春WOMAN 2024秋号