レッドブルは“注目株”コラピントと来季F1契約を結ぶべき? 海外F1ライター陣の視点
コラピントはレッドブル加入の準備ができていない……現時点では– Oleg Karpov
話題というのはおかしなモノだ。多くの扉を開くことができるという点では素晴らしいが、別の話題へ移り変われば、あっという間に閉じてしまう。 コラピントは今、間違いなく時代の寵児だ。レッドブルのチーム代表がこの若手ドライバーを陣営に引き込み、2025年シートの提供を検討しているという事実は、イタリアGPで突然のF1デビューを果たして以来の盛り上がりを物語っている。 なぜなら、F1にやってきたのはコラピントだけではない。ウイリアムズのマシンにはアルゼンチン企業のロゴが貼られ、チームのソーシャルメディアとサンパウロGPにはアルゼンチン人ファンがなだれ込み、アルゼンチンの政治家たちが突然F1について語り出したのだ。政治家も話題に乗らなければ政治家ではない。 コラピントをめぐる絶え間ない大騒ぎは、ウイリアムズにとっても、F1自体にとっても……誰にとっても素晴らしいことだ。2025年に向けて彼と契約を結ぶどのチームにとっても、まだ良いことが沢山ある。 しかしコラピントがレッドブルのシニアチームに加入するというのは、フェルスタッペンと対峙するということ。アルゼンチン企業のロゴがマシンに掲出されるかもしれないが、ファンや政治家たちとは関係がない。それに、コラピントがF1で最も厳しい職務のひとつをこなす準備が整っているという証拠はまだない。 妥当な議論かもしれないが、コラピントがトップチームのマシンに飛び乗るには早すぎるというわけではない。ただ、その仕事をこなせることを証明するだけのデータが十分ではないということだ。 これまでコラピントの走りを見てきた限りでは、サージェントよりもアルボンと相性が良いと言って良いだろう。またウイリアムズとしてもシーズン後半にかけて調子を上げてきたということは考慮すべきだが、コラピントがアゼルバイジャンGPで予選Q3に進出し、F1初ポイントを獲得したことは間違いなく印象的だ。ただ、予選でアルボンを先行したことも話題を盛り上げる要素となったが、チームのミスでアルボンが最終アタックをできなかったという事実もある。 シンガポールGPでの週末はまずまずだったが、アメリカGPでポイントを獲得したことは間違いなく注目に値する。だからといって、コラピントがトップチームのマシンに乗る準備ができているかというと、そうではない。少なくとも現時点では、F1で十分通用することを証明したということだ。 シーズン途中でマシンに飛び乗るというF1デビューの状況は、全体的な印象を良くしているが、ルーキーがF1でいきなり結果を残すというのはコラピントが初めてではない。新世代のドライバーたちがこのような試練にどう対処するかということに驚くのは、もうやめるべきなのだろう。 現代は、時計が全てを語ってくれる。バーレーンでのF1デビュー戦入賞を果たした角田の周りは大騒ぎとなったし、2022年に代役参戦で高いパフォーマンスを見せたニック・デ・フリーズは話題の人となり2023年のF1シートを掴んだ。ただ、そのデ・フリーズは最終的に成績不振でシーズン途中にシートを喪失した。 コラピントには、証明すべきことがまだ沢山残っている。イタリアGPとメキシコシティGPでのアルボンとの予選タイム差は現状、あまり話題に上がらない。クラッシュもそうだ。しかし、それが今日のメディアの本質だ。サージェントがセーフティカー出動中にクラッシュを喫すれば、格好の餌食だっただろうし、F1デビューの“ハネムーン期”にいるコラピントはまだ言い訳ができる。 ホーナー代表がコラピントの起用を検討しているという事実は、コラピントの衝撃的なF1デビューよりもレッドブルのドライバープールの問題の大きさを物語っているのではないだろうか。フェルスタッペンの隣に相応しいと太鼓判を押せる人材がいないのだ。 スポーツ的な理由だけであれば、ホーナー代表はウイリアムズのホスピタリティでジェームス・ボウルズ代表に、サインツJr.やアルボンといった他ドライバーの話をしていることだろう。 というのも、フェルスタッペン陣営がサインツJr.との2015年のトロロッソ(現RB)コンビ再結成という選択肢にどうしても耐えられないのであれば、ホーナー代表がウイリアムズから買い上げるドライバーリスト上位に挙がるべきはアルボンに違いない。 アルボンはレッドブル育成ドライバーとして2019年にトロロッソからデビューを果たし、その年にはシニアチームへ昇格。2020年も同チームで過ごしており、フェルスタッペンのチームメイトがどのようなモノなのか、よく分かっている。 しかし、F1は常にパフォーマンスが重要なわけではない。ホーナー代表がコラピントに注目している理由は他にもあるだろう。メキシコ出身のペレスを解雇した場合でも、レッドブルがラテンアメリカのスポンサーを満足させることができるかもしれないからだ。 コラピントは将来的にスーパースターになるかもしれない。ただ、現時点ではそれを裏付ける証拠がほとんどないのだ。
Alex Kalinauckas, Oleg Karpov