辰吉寿以輝、壮絶2回KO負け「試合どうなった」記憶飛ぶ「俺は立ったまま失神」父丈一郎励ます
<プロボクシング:フェニックスバトル126大会>◇12日◇東京・後楽園ホール◇日刊スポーツ新聞社後援 【写真】左フックを浴びて痛烈ダウン 同級6位の挑戦者・辰吉寿以輝(28=大阪帝拳)が、壮絶な2回KO負けを喫した。王者中嶋一輝(31=大橋)の左フックを浴びて痛烈ダウン。2回2分13秒、TKO負け。元世界王者の父丈一郎(54)が見守る中で、プロ18戦目で初黒星を喫した。試合後はドクターから「問題なし」の診断を受けて、自分で歩いて会場をあとにした。プロ10年目の初タイトルマッチは、ほろ苦い結果となった。 ◇ ◇ ◇ 壮絶に散った。辰吉は2回、前に出て圧力を強めた。だが中嶋の視線を下げて腹を打つフェイントにかかった。フルスイングの左フックをまともに被弾。意識を奪われ、後方に倒れてマットに後頭部を打ちつけた。レフェリーから即座に止められて、王座初挑戦は、失神TKO負け。担架で医務室に直行となった。診断は問題なしだったが、記憶が飛び「試合、どうなった」と繰り返したという。 プロ18戦目で初黒星。サウスポーとの対戦は2戦目で不慣れだった。左対策は重ねてきたが、実力王者に阻まれた。陣営は後半勝負を狙ったが、その前に試合は終わった。リングサイドで観戦した父丈一郎は「左(ジャブ)が圧倒的に少なかった」。吉井会長は「硬かった。いい王者でパンチもある。まだまだ経験不足かな」と完敗を認めた。 「辰吉、って名前だけで、けんかを売られた」 幼稚園のころ、毎日泣いて家に帰った。辰吉という珍しい名前に「浪速のジョー」の息子であることは隠しようがなかった。見かねた父から「やり返せ!」とボクシングの手ほどきを受けた。やり返した。父は「子供なのに、結構いったんよ。何度も謝った」。 同世代の子供に比べて、強くなった。泣いて帰らなくなり、目的は果たした。「あとやるか、やらんかは知らん」と父に言われた。父と4歳上の兄寿希也さんの後ろについて、ジムに通った。大人用の自転車で先をいく2人を、車輪の小さな子供用の自転車を必死にこいで、追いかけた。「おやじにボクシングを続けろ、と言われなかった。でもやめろ、とも言われなかった」。もうプロボクサーになることは決めていた。 デビュー時から目標は「世界チャンピオン」。初戴冠は逃したが、吉井会長は「休んだらケロッとしていると思う。将来が閉ざされたわけじゃないので」。丈一郎も言った。「負けてから強くなるが辰吉。倒れて失神するのはまだまだや。俺は立ったまま失神した」。99年8月のウィラポン第2戦を引き合いに、励ましを送られた。【益田一弘】