極限環境で安定動作する「宇宙用電池」実現、GSユアサが100年超えて培ったノウハウ
音速をはるかに超える速度で地球の重力圏から脱出するロケット、放射線や極端な気温差にさらされながら稼働する人工衛星―。それらに搭載される、電子機器などの電力源として活躍する電池を手がけるのが、ジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)だ。極限の環境下でも、安定した動作が求められる電池を開発・製造できる理由の一つは、同社が100年を超えて培った電池開発のノウハウにある。(京都・小野太雅) 【写真】GSユアサテクノロジーが手がける熱電池 鉛蓄電池で高いシェアを持つGSユアサは1917年設立の日本電池と18年設立の湯浅蓄電池製造を前身に持つ、創業100年を超える老舗電池メーカーだ。同社で宇宙用電池の開発、製造を担うのは子会社のジーエス・ユアサテクノロジー(GYT、京都府福知山市)。並河芳昭GYT社長は「GS(日本電池)とユアサ(湯浅蓄電池製造)ともに、宇宙用電池を手がけており、両者の知見が今も生きている」と語る。 GSユアサの宇宙用電池の開発の歴史は1970年代にさかのぼり、70年に打ち上げた国産初の人工衛星「おおすみ」には、同社の酸化銀亜鉛電池が採用された。同電池より小型かつ軽量で、高性能なリチウムイオン電池(LiB)開発も80年代にスタートし、98年に宇宙用途での製造を開始。熱電池の開発も80年代ごろから始めた。 熱電池はロケットの姿勢制御系機器などの電力源に、LiBはロケットの計測機器や人工衛星などの電力源に使われる。7月1日に打ち上がったH3ロケット3号機と、同ロケットに搭載された地球観測衛星「だいち4号」にも採用された。 同社の宇宙用電池の強みは、顧客から高い信頼を寄せられる製品品質。例えば、人工衛星は地上から100キロ―2000キロメートルの範囲を飛行する低軌道衛星と、地上から3万6000キロメートル付近を飛行する静止衛星があり、衛星によって求められる機能や特徴などが違う。GSユアサの電池は両者ともに採用されるが、「これまで事故を起こしていない。品質重視の製造体制を敷いている」(瀬川全澄GYT特殊・大型リチウムイオン電池本部技術部大型リチウムイオン技術グループ部長)。 宇宙用電池の生産は技術難易度が高く、工程単位は自動化できても工程間の作業は人が介在し、生産ライン全体の自動化は難しいという。装置を導入するだけでは作れない、高付加価値な電池を高品質に生産できる体制や社員の技術力の高さは「競争力の源泉だ」(並河社長)。同社の電池は、国内で宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げる衛星のほぼ全てに搭載されると言われ、信頼性の高さがうかがい知れる。 世界で盛り上がりを見せる宇宙産業。GSユアサのロケット向け電池を含む特殊電池などの事業の24年3月期売上高は前期比9・7%増の約215億円、営業利益は同2倍の約32億円となった。並河社長は「技術力を最大限に生かしつつ、コスト削減と生産の効率化も進める」とし、持続的な成長を見据える。