「意外と点が入る」新基準バット、勝利を摑むチームの「3つの条件」とは?
今年の高校野球では、大きなルール変更が行われた。その一つが、新基準バットの導入だ。3月18日開幕のセンバツを皮切りに全公式戦で使用されることになる。 【動画】神宮大会大敗から逆襲を期す豊川 モイセエフ・ニキータ衝撃の打撃練習 この新基準バットは、投手の安全面に考慮したものとなっており、以前のバットより飛びにくいと言われている。
昨秋は「飛びにくい」と評判も、一冬超えると「打撃戦」が各地で……
昨年秋、高校球界では「“飛ばないバット”の導入により、バントや機動力を駆使した野球が一層展開されることになる」との予想が大方だった。当時の指導者の声を振り返ってみよう。 「今まで以上にきちんと、送るべきところは送るということを徹底していかないといけません」(享栄・大藤敏行監督) 「以前の金属とは打球の角度や飛距離が違う。外野手の打球判断を誤る場面も見受けられます。より確実に当てないといけません。ほとんどの選手がミスショットになっていました」(本庄東・田中和彦監督) 選手も飛ばないバットを実感していた。 昨秋の明治神宮大会・北海–作新学院戦で、北海はいち早く新基準バットで公式戦を戦った。結果は延長10回3安打。得点はタイブレーク時の死球のみ。長打もなく、打球も強さはなかった。北海の打球を見た作新学院の小森 一誠外野手(2年)はこう感想を漏らした。 「守っていても、ボールが飛びにくい感じがしました。以前のバットだと『ここまで飛ぶかな』という予測よりも前で失速する感じです」 2024年の高校野球はロースコアの試合が増えるのでは、予想した人は多かった。 一冬超えて、2024年3月。対外試合が解禁となると、この予想は覆された。 各校の練習試合のスコアを見ると、意外と点が入っているのだ。センバツ連覇を狙う山梨学院と浦和学院の試合では、浦和学院が8対2で勝利。16安打中、長打が7本だった。 また、智辯和歌山(センバツ不出場)はセンバツ出場校・耐久相手に12対5と大勝。伝統の強打は健在の様子だ。
フライは失速するが、ライナー性の打球が…
なぜこのような打撃戦が起きているのか。 実際、私が試合を見た印象だと飛距離は間違いなく落ちている。しかし、それはあくまでもフライ限定だ。ライナー性の打球はあまり失速していないのである。 浦和学院の森大監督もこう語る。 「ライナーは失速しないですね。ただフライは伸びません。高反発バットの時代では起きていた『詰まってでも本塁打』というケースは減ると見ています。しっかりとライナーを打ち返すことが大事だ、と選手たちには伝えています」 また、点が入りやすいのは、外野手の守備位置も影響している。 飛距離の出にくい新基準バット対策として、ポテンヒットに備えて、定位置よりも前に守っているチームは多い。山梨学院は上述の浦和学院戦で実験として、以前の定位置よりは前で守ったという。このシフトのリスクは、外野の頭を超える打球や、外野の間を抜ける鋭い打球に対応ができないことだ。実際、通常ならば、二塁打に見えた浦和学院の打球が三塁打になっていた。結局、山梨学院の外野陣は試合後半になるとやや深めに守っていた。 3月3日に行われた都立総合工科vs都立足立新田の試合を取材したライターの手束 仁氏も守備位置に着目している。 「秋はあまり打球が飛ばなかったですが、春になると長打が増えましたね。飛びにくい新基準バットに備えて、外野守備が以前よりも前になっていました。打者は冬の練習でパワーが付いてきたので、芯で捉えた打球に、浅い守備位置では対応ができず長打になるケースが多かったです」 ライナー性の打球に備えてやや深めに守るか。失速しやすい打球に備えて定位置より前か。各チームの外野守備位置の試行錯誤は続いている。