大槻ケンヂ×燃え殻対談『今のことしか書かないで』は燃え殻調でいこうと思ったんだよ
この「ぴあ」で、2023年5月から2024年6月まで連載された、大槻ケンヂの“限りなくエッセイに近い幻想小説”、『今のことしか書かないで』が書籍化、10月4日(金) に発売になる。 大槻ケンヂ×燃え殻のスペシャル対談動画 1991年以降、筋肉少女帯などでのミュージシャン活動と並行して、コンスタントに著作を刊行してきた、ベストセラー多数あり、受賞歴もあり、作品の映像化・漫画化・舞台化などもある小説家/エッセイストの大槻ケンヂだが、今回のこの本は、なんと10年ぶり。 この『今のことしか書かないで』の帯に推薦コメントを寄せた、言わば「大槻チルドレン」の作家でありながら、逆に大槻にも影響を与えている(という話がこのあと出ます)という燃え殻と大槻に、本作について、お互いのことについて、7年ぶりに語り合ってもらった対談をお届けします。
大槻さんの本に書いてあることは、全部本当だと思ってたんです(燃え殻)
──大槻さん、著作は久しぶりですよね。 大槻 久しぶりです。今58歳なんですけど、40歳になった時に筋肉少女帯を復活させて、そっちの方が忙しくなって。30代までは、書き倒してきたんですけど、「もう書くのはイヤだ! つらい!」って思っちゃって。 燃え殻 え、でもエッセイは──。 大槻 うん、エッセイはちょこまかと。でも、隔週でエッセイを、何十年も書いてきて、ネタも尽きるじゃないですか。だから、野球とか全然観ないんだけど、野球カードを観て、そのことについて書き始めたりして(笑)。その時に「もうやめよう」と思ったの。あと、その頃まだ、原稿をファックスで送ってたの。 燃え殻 手書きですよね、大槻さん。 大槻 手書きで、パソコンできないから、ツアー先からファックスで……コンビニで送るの。コンビニも、送りやすいコンビニとそうじゃないコンビニがあって。京都からの時、全然送れないコンビニで、イヤになっちゃって。もう音楽の方に集中しようと。 ──その大槻さんの本の帯に推薦コメントを書き、こうして対談にも呼ばれている燃え殻さんと──。 燃え殻 光栄でしかないです。 ──大槻さんとのご関係は、どのような? 燃え殻 僕、自分がものを書き始める前から、大槻さんの読者で。大槻さんの本に書いてあることは、全部本当だと思ってたんです。 大槻 (笑)。 燃え殻 で、大槻さんが本を出していなかった期間に、ものを書き始めてしまい。「そうか、こうやって書かなきゃいけないんだ」と思って、本当のことを書いちゃったんですよ。「でもこれはあまりにも角が立つから、小説っていうことにしよう」とか。それで最初に書いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、1冊になって出る時に、書店で対談イベントをやりましょう、という話が出て。「誰と対談したいですか」と訊かれて「大槻さんがいいです」と。それでオファーしてもらったら、なんとOKだと。で、新宿紀伊國屋書店の控室で初めて会ったんです。「『リンダリンダラバーソール』のコマコ、大好きでした」って言ったら、「コマコ、いないんだよね」って。 大槻 そう。『リンダリンダラバーソール』って、半自伝的なエッセイみたいなもので、コマコっていうヒロインが出て来るんですけど、本当は、いないんですよ。創作なの、僕の。 燃え殻 びっくりした。 大槻 現実の中に、ちょっと妄想っていうか、空想を混ぜて。梶原一騎原作のマンガがそうだったのと、寺山修司の「起こらなかったことも現実のひとつだ」っていう言葉が好きだったんですよ。中二病の頃に読んじゃったもんだから、起こらなかったことを書くのがかっこいいんだ、と思っちゃって。 燃え殻 でもそれで、「あ、それでいいんだ」って思ったのがひとつと、あと大槻さんに、「起きたことをもっと劇的に書いたり、あるいはもっと悲しく書いたりするのが、小説やエッセイの希望じゃないか」と言われて。その「希望」って言葉がガーンときて。「おまえ嘘つきじゃねえか」って言われても、「いえ、希望を書いてるんです」って言おう、と思って。それからずっとその言葉が残っていて、大槻さんの今回の本の帯文にも使いました。 大槻 ありがとうございます。 燃え殻 その新宿紀伊國屋のトークイベントは、お客さんを入れての対談だったじゃないですか。そんな場でしゃべるの初めてだし、僕、怖くて。そしたら大槻さんに「大丈夫だよ、いいことも悪いことも、そのうち全部終わるから。売れてる本も、そのうち売れなくなるから」って言われて(笑)。「そうかあ、この祭りは終わるのか」と思ったら、すごい気が軽くなって。それで、まるで近所でしゃべってるみたいに、大槻さんと話せたんです。 ──大槻さんは、一面識もない相手とのトークイベントを、なぜ引き受けたんですか? 大槻 対談の話が来て、本を読んだの。そしたらおもしろかったの、とっても。しかもこの作家の方は、おそらく僕の読者だ、って思ったの。これはぜひ会いたいな、と。その時僕が、燃え殻さんに「全部終わるから」って言ったら、そのあとに出た燃え殻さんの本が『すべて忘れてしまうから』というタイトルで。 燃え殻 そう! 初めてエッセイの連載の話をいただいて、タイトルをどうしようかなと思ってる時に、大槻さんの言葉を思い出して、『すべて忘れてしまうから』にしました。だからもう、全部大槻さんなんです。 大槻 でもあの対談、もう7年ぐらい前でしょ? あれからずっと燃え殻さんは、冥府魔道の執筆人生を……今、週刊連載してるよね? 燃え殻 週刊は、2本です。 大槻 うわあ……僕は、書くことと音楽とをやってるでしょ? そうすると、変な言い方だけど、発散があるっていうのかな。お客さんの前で「イェーッ!」ってやって、「イェーッ!」って反応が返ってくる、っていうこともやってるけど、原稿書きって、書いても、担当さんとか「イェーッ!」って言わないでしょ? 燃え殻 「イェーッ!」も言わないし、サイゼリヤとかで打ち合わせして、「できた!」って言っても、「そうですか、じゃあ見せてください」って、目の前で読んでるのを待つだけなので。盛り上がりがない。 大槻 そうだよね。だから、音楽の方からもの書きに入って、今はそっちメインにやってる方って、僕は心の底から尊敬していて。一回ライブの「ワーッ!」っていうのを知っていて、ものを書くっていう地道な作業……もちろんそれはそれで良さはあるんだけど、ずっとやっているのは、すごいと思う。