大槻ケンヂ×燃え殻対談『今のことしか書かないで』は燃え殻調でいこうと思ったんだよ
「どういうのを書きますか?」って聞かれて、「燃え殻さんみたいなの、書きたいなあ」って言った(大槻)
──その新宿紀伊國屋の対談で、大槻さんが話したことが、次の筋肉少女帯のニューアルバムの、タイトルになりましたよね。 燃え殻 あ、そうだった! 『Future!』。 大槻 そうですそうです。「未来しかないんだよ!」という。 燃え殻 木村健悟が、稲妻レッグラリアートを出す時に──。 大槻 あ、木村健悟の話から始まりました? 燃え殻 はい。木村健悟が指を1本立てて「イナズマ!」って叫んで、相手をロープに振って、稲妻レッグラリアートを出す。 大槻 ああ、そうだ! 木村健悟が「イナズマ!」って叫ぶように、燃え殻さんも過去のことなんかに囚われず……すべて忘れてしまうんだから、もう『Future!』と言うべきだよ。という話をして、次の筋肉少女帯のアルバムのタイトルが『Future!』になったんだ。 燃え殻 そう、後日、筋少の次のアルバムのタイトルが『Future!』になったのを知って。こんなにつれづれなるままにアルバムを作る人、いるんだ!? と思って(笑)。 大槻 いや、でも燃え殻さんは、けっこう僕に影響を与えていて。あのあと、某出版社から、小説を書いてほしいという依頼があって。挫折したんですよ。うまく書けなかったんだけど、編集さんに「どういうのを書きますか?」って聞かれて、「燃え殻さんみたいなの、書きたいなあ」って言ったんです。ほんとに。 燃え殻 光栄が過ぎます。 大槻 でも結局書けなくて。そのあとに、ぴあからエッセイの連載の話をもらって。それがまとまったのが、今回のこの本なんですけど。一回(400字詰め原稿用紙で)4枚ぐらいで、隔週で、その時その時の大槻さんのことを書いていただけませんか、と。ああ、いつもの、クスッと笑えてサクサク読めるやつだな、と思ったんだけど、「なんかちょっと変なことをやりたいな」という気になって。それで、第一回目の一行目から、嘘を書いたんですよ。若い女の子と六本木のトリキ(鳥貴族)に行く話。 燃え殻 あ、あれ嘘なんですか? 大槻 嘘っていうか、妄想ですよ。行ってないですよ僕、若い女の子と六本木のトリキ。 燃え殻 いかがわしい飲み屋に連れて行かれて、女の子がいきなりまたがってくる、っていう話は? 大槻 ああ、あれはね、ある程度本当。場所とかは、いろいろ変えてあるけど。 燃え殻 あれは本当なんだ? わかんない、やっぱり。僕はそっちが嘘だと思った。 大槻 ほんと怖かったよ。店員のおじさんに帰りたいと伝えたら、ニコニコしながら「このビルの最上階に系列店がございます、そちらなら必ずいいコがいると思います」って背中を押されて、エレベーターに乗せられて。ドアが開いたら、店員と客が猛烈にもめてたの。ヤバい! って、非常階段から走って逃げた。 燃え殻 はあー。 大槻 だから、燃え殻さんのエッセイ、小説に、インスパイアされました。それと同時に、もうひとつ当時影響されていたものがあって。それは、『本当にあった呪いのビデオ』とか、フェイク・ホラー・ドキュメンタリーの──。 燃え殻 ああ、ありますね。 大槻 モキュメンタリーなんて言いますけど。観ていると、「あれ? これ、本当? 嘘?」みたいになってくるの。「本当かも」と思いながら観ていると、だんだんフィクションの方に入って行って、最後は完全にドラマになって終わったりするんだけど。それを文章でできないかなあ、と思って、書いたのがこれなの。 燃え殻 なるほどー。でも今回、『今のことしか書かないで』というタイトルをきいた時に、『すべて忘れてしまうから』の、果汁3%ぐらいは入ってるんじゃないかと思って。 大槻 完全にそうだよ。燃え殻調でいこうと思ったんですよ。語呂が似てるでしょ? 燃え殻 うれしかったです。この大槻さんの連載が始まる前に、偶然、担当の編集の方と飲み屋で知り合って。「大槻さんの連載が始まるんです」「どんな内容なんですか?」「燃え殻さんみたいなのをやりたいそうです」と。 大槻 うん。 燃え殻 大槻さんのようなものが書きたい、と思って書き始めた人間に対して、「燃え殻みたいなのを書きたい」って大槻さんが言ってくれる、っていうのが……。