「半導体製造用レアガス」製鉄所から供給…大陽日酸、競争力の源泉
日本酸素ホールディングス(HD)傘下の大陽日酸は、関連会社のJFEサンソセンター(広島県福山市、上原正弘社長)で半導体製造用レアガスの生産を始めた。製鉄所の高炉に酸素などを供給することを役割としてきたが、運用に慣れた大型装置の副産物を活用。このほど新たな生産プラントが稼働し、6月に出荷した。国内向け供給体制はグループ全体で拡充する計画で、サプライチェーン(供給網)強化に貢献する。(渋谷拓海) 【写真】半導体製造で使うレアガス JFEサンソセンターは1966年に製鉄所の稼働とともに誕生した。現在の出資比率は大陽日酸60%、JFEスチール40%。JFEスチール西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)敷地内にある福山工場(同)は、酸素や窒素、アルゴンなどの産業用ガスを生産。高炉へとつながる太いパイプに送りつつ、一部は大陽日酸の顧客にも振り向けている。 同工場では3月までに大型空気分離装置を増設した。4月にはレアガスであるクリプトンとキセノンの製造装置が隣接するように完成。レアガスの素原料製造から最終精製まで担っている。福山工場長を務めるJFEサンソセンターの江川英樹取締役は一連の生産プラントを「省エネルギー型の最新鋭にした」と語る。 新たな大型空気分離装置の生産能力は、酸素ガスが毎時4万8000ノルマル立方メートル、窒素ガスが同8万2000ノルマル立方メートル、液化アルゴンが同1580ノルマル立方メートル。同装置とパイプでつながるレアガス製造装置はクリプトンを年間260万リットル、キセノンを同21万リットル生産可能。その規模を藤村英典福山工場技術課長は「25メートルプールにためた大気から、中ジョッキ1杯分のクリプトン、エスプレッソ1杯分のキセノンを取り出すようなもの」と例える。 酸素、窒素、アルゴンといった産業用ガスを送り出す空気分離装置では、従来もその副産物としてクリプトンやキセノンを採取できた。これらは大気中にごく微量存在するが、産業用とするには生産設備が大規模になる。顧客側では、内需の大半を安価な輸入品に頼っていた側面があった。 一方で国際情勢は不透明さが増している。同工場の一連の生産プラントには国の補助金も活用。大陽日酸グループでキセノンやクリプトンの素原料製造から最終精製まで担える拠点は現状、九州サンソセンター(北九州市戸畑区)が日本製鉄九州製鉄所大分地区(大分市)に持つプラントを含め二つになった。高品質な国産レアガスの安定供給につなげる。