纏う人を輝かせる逸品、入手困難な海外製アンティークボタンの聖地…京都・中京
約100万個の在庫を誇る日本有数のボタン専門店が、京都市役所近くの寺町通にある。既に生産されていないアンティークボタンが所狭しと並ぶ「ボタンの店エクラン」(京都市中京区)だ。店名は、フランス語で「宝石箱」を意味する。(向野晋) 店頭には「ボタン」としか書かれていない(京都市中京区で)
2階建ての古びた小さなビルの一階正面。「ボタン」とだけ記した看板を掲げた店に、若い女性や外国人観光客が吸い寄せられるように入っていく。ファッションに感度が高そうな人が多い印象だ。
店に入ると、オートクチュール(高級注文服)向けのフランス製や、金属に細かい細工を施したドイツ製、青や黄など原色を大胆に用いたイタリア製など、今では入手が困難なボタンを納めたボタン箱が、天井に届かんばかりに並んでいた。
若者の間で、レトロなボタンを使った洋服作りが流行(はや)っているのだろうか。「アクセサリーとして加工するために、買っていかれるんですよ」。店主の本間邦亮さん(83)が教えてくれた。
アンティークボタンの聖地のような店となったのは、時代の波を逆手に取った本間さんの戦略があった。
本間さんは高校卒業後、主に洋裁材料を扱う小売店に入った。30歳でボタン部門の買い付けを任されると、「国産のボタンでは他店との差別化が図れない」と、一年間に何度も欧州を中心に出張した。
肌で感じたのが、業界の変化。プレタポルテ(高級既製服)の登場で、オートクチュール用の手の込んだボタンは作られなくなると直感した。裏を返せば、今後、そうしたボタンの価値は上がるはず。「買い集められるだけ集めておこう」
本間さんのボタン集めを会社は見守ってくれたが、困ったのは在庫を保管する場所だった。たまたま隣の古道具屋だった建物が売りに出ており、43歳の時に自分で買い取った。会社に貸し出すことで、安心してボタン在庫を増やしていった。
その後、本間さんは定年を機にボタンの在庫を買い取り、古道具屋だった保管場所で、ボタン屋を開業。ますます旺盛に買い付けに励んだ。