自分のことを好きになったら引退しよう――「うっせぇわ」が社会現象に、顔出ししないAdoの原動力は「劣等感」
“歌い手”という「脇役」
メジャーデビューから1年と少し。順調すぎる活動に見える19歳のAdo だが、“歌い手”の活動を始めてから5年の歳月が経過している。 「中学2年生のとき、“歌ってみた”作品を初投稿しました。小学生の頃から私は『アド』という名前で音楽活動したいと考えていたんです。私の名前『Ado』は、狂言の役柄を参考にしたんです。脇役を『アド』、主役を『シテ』と呼ぶんですね」 Adoが“歌い手”としてこれまで歌ってきた曲は、作り手であるボカロPが提供した作品である。ゆえに実体験ではなく、物語を演じる役回り、しかも脇役であることをAdoという名前で言い表していた。素性不明にみえて、実は活動コンセプトのすべてをアーティスト名に込めていたのだ。 学生生活においては、目立つタイプではなかったというAdo。 「小学生の頃は、絵を描くことが好きで、学校でも外に出ないで自由帳に絵ばっかり描いていました。イラストレーターになりたいなって思っていたんですけど、学校に絵がうまい子がいて。その子たちの絵を見ていると、ほんとに上手で……。比べてしまって、わたしの絵ってうまくないんだなって……劣等感を抱いていましたね」 「ボカロ曲は、小学1年生ぐらいから親のパソコンで聴いていました。すごく刺激的で、まず人間が歌っていないっていうところで『何なんですか?』っていう(苦笑)。しかもただ機械が歌っているだけでなく、ちゃんとボーカロイドというキャラクターとして成り立っていて、初音ミクや鏡音リン・レンなどアーティスト性ある魅力がたっぷり詰まっていて大好きでした」
今やAdoの肩書でもあり、人生のターニングポイントとなる“歌い手”の存在を知ったのは、小学校高学年の頃だった。 「ボーカロイドだからこそ出せる高音や音域的に難しいメロディーを、人間である“歌い手”が軽々と魅力的な声で歌っていて驚いたんです。しかも、顔出しせず、どんな人なのかわからないけど歌のみで勝負する。次から次へと知りたい、知りたいって聴きまくりました。何もできない自分だけど、姿を見せず声だけで人を魅了する“歌い手”という活動だったら、もしかしたらできるんじゃないかなって」 2017年1月10日に、動画共有サービス「ニコニコ動画」へクワガタP「君の体温」の“歌ってみた”動画を投稿する。 「今より昔のほうが変な自信があったかもしれません。初投稿した“歌ってみた”作品の頃から『わたし、ちょっといい感じじゃない?』って思っていたんです(苦笑)。自信を感じたのは、くらげPさんの『キライ・キライ・ジガヒダイ』を投稿したとき。自分の中でも攻めた歌い方をしていて、それこそ『がなり』とか張るような歌い方を本格的に始めたんです。 『私、何でもできるかもしれない!』みたいな、わんぱくちゃんだった気がします(笑)」 Adoが“歌い手”のなかでも特にリスペクトしてきたのは、まふまふ。昨年末「紅白歌合戦」に出演した際、あえて“歌い手”として出場している。 「衝撃でした。ご自身の曲ではなくてカンザキイオリさんの『命に嫌われている。』を選曲されていて。 “歌い手”であることを大事にしていただいていると思うと感激でした。 “歌い手”としてパフォーマンスされたことに時代を感じますし、胸が熱くなりました」 Adoは、そのまふまふから楽曲提供を受けるまでになった。ドラマ「ドクターホワイト」の主題歌であるAdoの新曲「心という名の不可解」は、まふまふが作詞作編曲を手掛けたものなのだ。