「朝起きると、隣で妻が……」 グリーフケア研究の第一人者が伝えたい 大切な人と死別したときに「何より大切なこと」
多死社会・高齢社会の今、「グリーフケア」が注目されている。グリーフとは、日本語で「悲嘆」という意味。大切な人を亡くした際、人は大きな悲しみや喪失感を抱える。 長年にわたりグリーフケアの研究と実践を行ってきた第一人者・坂口幸弘さんと赤田ちづるさんに、悲しみや喪失感と自分なりに向き合い、やがて再び歩き出すためのヒントを聞いた。 坂口さん、赤田さんの著『もう会えない人を思う夜に ―大切な人と死別したあなたに伝えたいグリーフケア28のこと-』(ディスカヴァー)から一部を抜粋、再編集し紹介する。 *** これからどう生きていけばいいのだろう。 大切な人を亡くしたとき、まるで暗闇の中にひとりでいるようで、どこに向かえばよいのかわからないと感じることがあります。 3年前に母親をくも膜下出血で亡くした30代の女性は、「深い海の底で迷子になったかのようでした」と当時の心境を振り返ってくれました。 母が一番の理解者だったと話すこの女性は、母親を失い、だれも私の気持ちをわかってくれず、いつもひとりぼっちだと感じていたといいます。 そして、「こんなにつらい思いをしているのは私だけだろう」とずっと思っていたそうです。 身近な人の死に出会った経験は過去に何度かあったとしても、亡き人との関係性や死の状況などによって、受ける影響は大きく異なります。かつて体験したこともないほどの喪失感に押しつぶされそうで、このまま生きていてもしかたがないと思うことさえあります。 認知症の母親を5年間にわたって在宅にて介護し、看取った60代の女性は、こう話してくれました。
「毎朝目覚めると、また一日が始まるのか……と絶望的な気分になります。母の寝ていた部屋でベッドを眺めながら、何もできずにただ時間だけが過ぎていくんです。母のいない一日をどう過ごしていいのかわからない。生きていることがとてもつらいんです。本当に情けないです」 大切な人を亡くしたあと、遺された人は、亡き人が物理的には存在しない人生の時間を過ごすことになります。この60代の女性のように、母のいない時間をどのように過ごせばいいのかわからず、途方に暮れる人もいます。 一日をとてつもなく長く感じるときもあれば、何もできないまま気がつくと一日が終わってしまうこともあります。 人によっては、あたかも時間が止まってしまったかのように感じるでしょう。 あるいは自分には世界が一変するほどの出来事が起こったにもかかわらず、現実の世界が何ごともなかったかのように動いていることに戸惑う人もいます。 ■取り残された気持ちに 夫を肝硬変で亡くした40代の女性は、「周囲の人は自転車で走っているのに、私は道の真ん中にひとり取り残されたように感じて、どうしていいかわからなかった」と話されていました。 いつもと変わらぬ社会の時間の流れのなかで、自分だけが置いてきぼりになっているように感じられるのです。 このような状態に陥ることは、けっして特別なことではなく、大切な人と死別したあとにみられる自然な反応であり、だれもが経験する可能性があります。 もし自分がこのような状態になったときには、早く元気にならなければとあせる必要はありません。 何より大切なことは、あなたが生きていることです。 今はまだ、何もできなくてもいい、とにかく生きていればいいのです。