実は「安く買えてラッキー!」と喜んでばかりもいられない…「送料無料で当たり前」の危ない落とし穴
◆送料無料が抱える課題
送料無料は、消費者とEC事業者にとってメリットがありながら、一方でEC事業者にとっては“デメリット”も。送料無料は集客やブランディング効果につながりつつも、利益率や顧客単価が下がり、収益を圧迫しかねないリスクがあります。いわば、もろ刃の剣です。 送料はEC事業者が配送会社に支払う仕組みになっているため、本来消費者が負担すべき送料を自社で負担するとなると、利益率が大幅に低下します。 特に低価格商品で、送料が無料の場合は“原価割れ”を起こすリスクがあります。すべての商品を送料無料とすると利益率に影響が出るため、高額商品のみを送料無料にしたり、キャンペーン期間中は送料無料にしたりするなどの対策が必要となります。 さらに大きな課題が“配送コストの削減”です。EC事業者が利益を確保するために、物流事業者に対して安いコストで配送を委託せざるを得なくなってしまう。映画『ラストマイル』ではまさにこうした側面が描かれています。ラストマイルを担う配送ドライバーは安い単価で膨大な荷物を配送することを余儀なくされるわけです。
◆消費者の変化も必要
今、物流業界は担い手不足によって「物が運べなくなる危機」に直面しています。物流の2024年問題では、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限され、短くなった労働時間や収入の減少などによって、ドライバーが減少する懸念が生じています。 今後対策を講じなかった場合、2030年には営業用トラックの輸送能力は34.1%不足し(※3)、トラックで輸送する貨物の重量は9.4億t不足するといわれています(※4)。 ちなみに、これを単純に10t積みの大型トラックに換算すると9400万台に相当します。350kgしか積めない軽トラックや軽バンではおよそ26.9億台分です。当然ながら、すべてを軽トラックに換算するには無理がありますが、いずれにしても相当な量の荷物が運べなくなる事態が推測できます。 こうした危機に対応するため、政府は2023年6月、経済産業省や国土交通省を中心に「送料無料」表示の見直しを含む「物流革新に向けた政策パッケージ」を公表。また、消費者庁は事業者や消費者に向けて「送料無料」表示の見直しについて、具体的な取り組みを呼びかけています(※5)。 これまで何とかやってこられたかもしれない「送料無料」表示。しかし、今後も物流を維持し私たちの生活を維持するためには、これまでの私たちの意識や行動を変える段階に来ているのではないでしょうか。 <参考> ※1:ORICON NEWS「『ラストマイル』興行収入51億円突破 “シェアード・ユニバース”大当たり」 ※2:株式会社ネオマーケティング「全国の20歳~69歳の男女1000人に聞いた『送料設定や画像、ユーザーが求めるECとは』」 ※3:国土交通省「2024年問題に向けて」 ※4:公益社団法人 全日本トラック協会「知っていますか? 物流の2024年問題」 ※5:消費者庁「物流の『2024年問題』と『送料無料』表示について」 【この記事の筆者:蜂巣 稔】 物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。
蜂巣 稔